「なでしこジャパン」の澤穂希、女子ゴルフの宮里美香、宮里藍。そして、テニスの伊達公子……。世界で活躍する日本女性たちが輝いている。「女が惚れる女たち」の共通点とは何か。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が解説する。
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世界の檜舞台で、大仕事をこなす女たちに賞賛が集まっています。ワールドカップで次々に強豪を倒し、とうとう決勝に駒を進めた「なでしこジャパン」。澤穂希をはじめ、代表選手たちの仕事師ぶりに、畏敬の念を抱いた人も多いはず。
そして、全米女子オープンゴルフで5位、6位に入った宮里美香、宮里藍。ウィンブルドン・テニスで、ヴィーナス・ウイリアムズと対等に渡りあった、クルム伊達。
ことさら日本の女性の優秀さを言い立てるつもりはありませんが、世界の檜舞台で頂点に迫る彼女たちには、思わずリスペクトを表したくなる勢いがあります。
女が惚れる女たちには、共通点があります。淡々と自分の仕事をこなす姿、背筋の伸びた媚びない態度。それを象徴する「アルト」の声。
男性中心のシステムがいまだに多い日本では、女が生きぬいていくために、声の出し方一つにも戦略を強いられることがしばしばです。
権力を握る男性に取り入る術として、「女性」性を強調する。無意識にあるいは意図的に、「キンキンとした黄色い裏声」を使う女性がたくさんいるのは、そうした理由からです。
「人は女に生まれない。女になるのだ」。
誰もが知っている、ボーボワールの言葉です。
しかし、スポーツの世界では、「媚び」は意味も価値もなしません。
ただ、自分の実力で勝負するだけ。
だからこそ、世界で活躍する選手たちは、アルトの声で話すのです。つまり、「ありのままの自分で勝負している」ことを示しているのが、声のトーンなのです。
スポーツ選手以外にも、アルトの声を響かせて活躍している女たちがいます。女優でいえば黒木メイサ、歌手でいえば平原綾香、AKBでいえば篠田麻里子、ついでに元アイドルでいえば麻丘めぐみ……。
アナウンサーでいえば、NHK「ニュースウォッチ9」のキャスター、井上あさひ。
井上さんは、無理に表情を作らず、媚びた微笑みもせず、淡々と落ち着いた調子でニュースを伝えます。メインキャスターのつまらないつっこみにも顔色ひとつ変えず、さらりといなすあたりに、風格すら感じます。
井上さんがニュースを読む声はもちろん、しっとりと響く「アルト」の声です。
早くその実力を認められて、彼女がメインキャスターとして輝く日を心待ちにしているファンも、多いのでは。
一方、メインキャスターを務める大越健介氏はどうでしょう。東大野球部ご出身だそうで、政治を語る時にしばしば「直球解説」と意気込んでいらっしゃいます。それほど野球がお好きでお詳しいようなら、スポーツコーナーを担当されてはいかがでしょう。
「アルト」とは、女の声の「低い音域」を指しますが、「アルト」の語源は、ラテン語で「高い」。低い声を指すのに、なぜ「高い」のか。実は「アルト」が、「男声のテノールよりも『高い』」からだったのでした。
つまり、世界の基準のほとんどは、男に置かれているのです。声の音域の基準までもが例外ではない、ということです。
なるほど、「なでしこジャパン」の試合中継が男子に比べて圧倒的に少ないのも、そういう理由からなのですね。