テレビ発の節電キャンペーンに疑問を抱くコラムニストの小田嶋隆氏が、放送された節電術について冷ややかに斬る。
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現在、テレビの情報番組は、玉石混交の節電情報が半ば未検証で垂れ流しにされている状況にある。どんな情報であれ、とにかく流していればそれらしく見えるという、そこのところに注力しているわけだ。
そんなわけで、民放の週末番組になると、節電もほとんどファンタジーの域に到達する。
私が見ていた中では、TBSの『王様のブランチ』が、「人生ゲーム」を「節電おもちゃ」のひとつとして長々と紹介していた。おどろくべき見解だ。
そりゃたしかにボードゲームなんだから電気を食わないことは確実だ。でも、だとしたら、ボールペンは節電筆記具(対ワープロ比)で、犬は節電ペット(対熱帯魚比)で、セックスは節電娯楽(対エロ動画比)ということになる。そういうことで良いんだろうか。あんまり無節操過ぎないか?
テレビ発の節電キャンペーンの奇妙さは、さんざん節電を煽っておいて、最後に「くれぐれも無理しない範囲で」というエクスキューズを付け加えるところにある。
これは、おそらくエアコンを我慢した結果熱中症で倒れるお年寄りが出ることを警戒しての付加情報なのだと思うが、この一言があることで、それまでの節電あれこれがかなりの度合いで台無しになる。
「がんばれ。でもがんばりすぎるな」
つまり、ダブルバインドだ。煽った後に水をかける力加減。飾り窓の女が勘定の時だけ一瞬真顔になるみたい(って、飾り窓になんか行ったことないけどさ)で、興ざめですよ。
インバーターエアコンは、電力が不足して電圧が低下すると、消費電流量を増やすことで電力(W)を一定に保つ仕組みでできている。つまり、水道管になぞらえて言えば、水不足になると管を太くして、自分だけいち早く水を確保しにかかる構造になっているのだ。
かように、節電という我慢比べのステージでは、正直者が損をすることが、原理的にあらかじめ定められている。きびしい勝負だ。
結論を述べる。節電キャンペーンは、なまあたたかい目で受け止めよう。原発推進勢力の陰謀だという話もあることだしね。
で、節電の実行はあくまでも冷ややかに。熱くなった方が負け。
※SAPIO2011年8月3日号