復興にはカネが必要だ。そのためか、「増税やむなし」という論調が新聞で目立つ。一見すると正しいようにも思えるが、それが新聞社自らの利益を確保するために、財務省の意向を汲んだ“工作”だったらどうか。ジャーナリストの武冨薫氏が報告する。
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「増税翼賛」キャンペーンを展開する新聞各紙の論調には一定のパターンがある。日本の財政赤字(国の借金)は危機的状況にあり、増税しなければ国債発行がさらに増え、日本国債の格付けが引き下げられて金利が急騰。政府は利払いに追われて復興も社会保障の財源も出せなくなり、国家財政が破綻した「ギリシャの二の舞いになる」だから復興のためにも消費税引き上げは必要、というものだ。
これは財務省の主張とそっくり同じ論理である。
しかし、復興と増税は明らかに矛盾する。これから復興事業を本格化させなければならない時に、消費税をさらに5%引き上げれば経済は冷え込み、なにより生活再建をはからなければならない被災者にも重い負担がのしかかるからだ。
主要紙の中で唯一、「被災者だけでなく、日本国民と経済全体を疲弊させ、共倒れさせさせかねない増税論がいま、跳梁跋扈している」と増税反対論を唱えている産経新聞の田村秀男・編集委員兼論説委員がこう指摘する。
「財務官僚は職分として増税論を唱えているわけで、ジャーナリズムはそれを鵜呑みにするのではなく、正しいのかどうか批判的に受け止めなければならない。当社でも、震災前までは、社会保障財源として消費税引き上げはやむを得ないという議論もあったが、震災後は復興を最優先にすべきで、国民負担を増やす増税は復興と相反するという立場だ。
過去の例を見ても、橋本内閣は消費税増税と緊縮財政でデフレを深刻化させ、税収は大幅に減った。震災の中で消費税を引き上げ、あの時と同様に税収が落ち込めば、かえって国債の発行が増えて財政再建にも逆行する可能性がある。そう考えると、国家財政が破綻するから増税という論理がおかしいことは、記者が自分の頭で考えればすぐわかるはずなのです」
読売、朝日をはじめ他紙にはそうした財務省の増税論の批判的検証など何もないどころか、被災地復興の青写真や財源を議論する政府の「震災復興構想会議」の委員には、読売新聞の橋本五郎・特別編集委員と、元朝日新聞論説委員の高成田享・仙台大学教授が入っており、政府と一体となって「復興のための増税」を推進してきた構図なのだ。
自分たちが増税必要論を煽っておいて、読売は世論調査で増税賛成が「60%」、朝日は復興増税賛成が「59%」といかにも国民が増税を望んでいるかのように報じているのは、一連の震災報道の中でも罪が重いデマゴギーと言わざるを得ない。
※SAPIO2011年8月3日号