近年、「生物多様性」というキーワードをよく耳にする。いわく、「生物の種類が年々減っている」「絶滅危惧種を守らなければいけない」……至極ごもっともに思えるこれらの主張。だが、果たしてそれは本当か? 話題の新刊『生物多様性のウソ』(小学館101新書)を著わした武田邦彦氏が、そこに潜む偽善と欺瞞を喝破する。
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開発や汚染、気候変動などの影響で、いま世界では1日に100種の動植物が絶滅しているといわれています。1年に換算すれば3万~4万種です。朝日新聞(2010年10月11日付け)の記事「生物の未来、世界が守る 国連地球生きもの会議開幕」には、「多様な生きものによって支えられている生態系は、パーツが一つ欠けるたびに、少しずつバランスを崩していく。やがて臨界点に達すると、修復できないほどの大きな崩壊を始めることになる」と書かれています。
人工的な環境に住み、自然と触れ合う機会の少ない現代人が感じる不安を掬い取るような文章です。しかし、生物種が減っていくと本当に生態系は崩壊するのでしょうか。
地球上に多細胞生物が繁殖し始めたのは5億5000万年前で、隕石の衝突などが原因で何度も絶滅を繰り返しながら、2億年ほど前の中生代には600万種にまで増えました。6000万年前にはメキシコ湾に巨大隕石が落ちて氷河期になり、恐竜が絶滅しましたが、環境の激変に適応した生物が進化を遂げて増え続け、現在では3000万種となっています。
では、600万種しかいなかった中生代には、生態系が存在しなかったのでしょうか。そんなわけはありません。生物種が減って隙間ができれば、そこへ他の生物や、環境に適応して進化した生物が入り込んで埋めるだけです。
ガラパゴス諸島には固有種がたった110しかしませんが、生態系は維持されているのです。むしろ外来種が入ると生態系が崩れると管理しているのですから、生態系を維持するのに「多様さ」は必要ないのでしょう。