おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、日本とアメリカにおける「電話の声」の違いについて解説する。
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ちょっとした用事で、日本の不動産会社に国際電話したら、いきなり子供が電話口に出た。「はい、○○不動産でございます」。舌足らずな女の子だ。「おいおい、この会社、小学生に電話番させるの?」と仰天した。もっとも次の瞬間、自分の誤解に気付いたけどね。「日本の女性の『電話声』って、久しぶりだとこんなに幼く聞こえるんだ!」と。
次に、営業マンが電話口に出た。私は日本の家探しについて、矢継ぎ早に質問する。営業マンの対応が心なしか固く、取っ付きにくくなる。あれれ、何か変だ。私の口調って、妙に暗くて、不機嫌で、思い切り嫌なヤツっぽく聞こえてないか!? そこで、ようやく気付いたのだった。「私の声が低過ぎるんだ!」。アメリカ流にわざと低い声で話した結果、「この女、怒ってんのか?」と営業マンに誤解されたらしい。
アメリカの女性は、人前や電話で話す時、日本人女性のように、普段より高い、かわいらしい声を出したりしない。むしろ逆だ。わざと声を下げる。落ち着いた、深い声ほど、有能で魅力的な印象を相手に与えられる、と考えられているからだ。
アメリカじゃ、キンキンした甲高い声は子供のうちだけ。高校生にもなると外見だけでなく、声もずっと大人っぽくなる。女性の政治家やアナウンサーの声も軒並み低い。職場や学校でのプレゼンなんかも、日本の「電話声」でやるのはNG。甲高くてかわいらしい声は、軽率でバカっぽく聞こえるんだって。
だからだろう。日本人女性はアメリカに来ると、かわいい「電話声」を封印する。「ママの声って日本人相手の時だけ甲高くなるね~」と子供に指摘された駐在妻も。アメリカ生まれのバイリンガルの娘さんでさえ「英語をしゃべる時は低い声、日本語の時は高い声に、自然と変わっちゃう」というから面白い。
「日本人女性の声はなぜ甲高いのか」は、アメリカ人の間でも話題になる。ネット上の論争をのぞいてみると、「アニメだけじゃなく、生身の女性も声が高いよな」「日本語と英語の言語の特性の差だろ」「遺伝的傾向?」「でも、クロサワ映画の中の女性は、甲高いアニメ声で話さないぜ」「アメリカの女みたいに、男と対等に張り合おうとしてないからじゃないか」なーんて感じだ。
※週刊ポスト2011年8月5日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第154回より抜粋)