近年、「生物多様性」というキーワードをよく耳にする。いわく、「生物の種類が年々減っている」「絶滅危惧種を守らなければいけない」……至極ごもっともに思えるこれらの主張。だが、果たしてそれは本当か? 話題の新刊『生物多様性のウソ』(小学館101新書)を著わした武田邦彦氏が、そこに潜む偽善と欺瞞を喝破する。
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7億年ほど前の第0氷河期が終わり、大気中に酸素が蓄積され、多細胞生物が爆発的に発生したカンブリア紀の初期には、実に奇妙な動物が見られます。
三葉虫やアンモナイトが生息していた時代ですが、他にもさまざまな生物がいました。生物によっては目が1つから5つぐらいまであったようです。足が四方八方についている生物もいました。「目は2つあれば距離を測れる」「足は地表に向かって伸ばせばいい」ということを生物は学校で教わるわけではないので、「トライアンドエラー方式」、つまり「やってみてダメなものは死ぬ方式」を採用せざるをえません。結果的に目が2つ、足が地表に伸びた生物だけが生き残ったのです。
北アメリカには「素数セミ」と呼ばれるセミが生息しています。幼虫で12年間、または16年間土の中で生活する13年周期セミと17年周期セミがいて、なぜか11年周期や15年周期のものはいません。おそらく昔は2年、3年、4年、5年……、とさまざまな周期のセミがいたが、天敵動物の周期からはずれ、寒冷期の地上で素早く交尾相手をみつけ、子孫を残してきたのが13年セミと17年セミだけだったと考えられます。これも自然淘汰の結果です。
生物の絶滅にはそれぞれ意味があるのです。もし古生代に人間がいて「生物多様性を守るために、絶滅する生物を保護」していたらどうなるでしょうか。弱肉強食が自然界の原理であり、それに人為的に逆らえば、今も目が5つの生物や足が四方八方に伸びた生物の世界のままです。生物の進化も止まるので、何億年もの進化を受け継いできた「人間」も誕生しないことになるのです。