「(福島第一原発の事故について)危機状態から一定の収束の方向が見えてきた」――菅首相はこう自慢顔で答弁したが、気の遠くなるような長丁場を覚悟する現場の作業員は一笑に付す。原発に作業員として潜入したフリーライターの鈴木智彦氏が、現場の様子をリポートする。
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現在、東京電力福島第一原発(1F)ではサマータイムが実施されている。最高気温に達する午後2~3時付近の作業を避け、早朝か夕方の涼しい時間に就業するシフトで、夜間の作業は原則的に中止された。
「最近、暗がりの中で転倒したり、側溝に落下して骨折した事故などが続いたからだろう。1Fの周囲は真っ暗で、外灯もなく、ライトを点けても視界が悪い。太陽が昇って気温が上がってしまうと長い時間働けないが、そのぶん、安全に作業が出来る。実質的な作業時間を考え、安全確保に時間をとられる深夜の作業より能率的と判断したんだと思う」(5月の連休明けから1Fに就労した作業員)
作業時間の短縮も行なわれた。いわき湯本の旅館から(対応拠点の)Jヴィレッジ、Jヴィレッジから1Fまでの往復時間、着替え、ミーティングなどを含め7~8時間拘束される。実際の作業時間は、長くても4~5時間だが、勤務時間は担当する作業によって格差が存在する。瓦礫撤去の土木作業員のように運動量が多く、短時間で高線量を浴びる仕事は否応なく勤務時間が少ない。平均値とは言っても勤務時間の差はでかい。
「結局、どんな仕事を担当しても汗だくになるのは同じ。なにせ長袖・長ズボンの下着に綿の靴下、その上にタイベック(防護服)を着て、全面マスクを被ってるんだからね。手には三つの手袋を重ね着し、袖口をテープで塞がなきゃならない。ビニール手袋を脱ぐとたまった汗がぼたぼたと落ちてびっくりするよ。
顔面も汗だらけになる。息がリーク(顔とマスクの間から空気が漏れること。言い換えれば放射性物質の舞い散る空気を吸うこと)しないよう全面マスクとタイベックの隙間をテープで遮蔽してるから、目に汗が入っても拭えない。そもそも汚染された手袋のまま皮膚に触ることはできない」(5次請けの協力会社作業員)
※週刊ポスト2011年8月5日号