新聞・テレビは、私たち国民が知りたいことをわかりやすく報じているのだろうか。東日本大震災、福島第一原発事故後、メディアから流れてくるのは、「ただちに健康に影響はありません」「確認中です」等々、国民を不安がらせる官僚用語の垂れ流しばかりではないか、とエッセイストの神足裕司(こうたり・ゆうじ)氏は指摘する。
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テレビ・新聞メディアの原発事故報道は、わけがわからず、気分を暗くする毒薬にしかならなかった。
いつも「言論の自由」と声高に言いながら、もっとも大事な地震後の1か月、政治と同じく、大メディアは国民を守らなかったし、極秘情報をもとに家族だけを関西方面へ避難させる“放射能インサイダー”のような輩もいた。
私たちは放射能に汚染されているのかいないのか? 政府もメディアも信用できない。
官邸、文部科学省、経済産業省の原子力委員会、東京電力が二重三重の記者発表をしてますます混乱が深まる中、福島第一原発3号機はプルサーマル、すなわちウランとプルトニウムをMOX燃料として使う、人類最悪の猛毒施設ではないかとの世間話がざわざわと流れた。
これを打ち消すように大メディアが流したのは、「プルトニウムの放射能は紙一枚で防げる」という事実ではあっても冗談のような発表だった。放射能汚染を少なめに発言すれば「御用学者」と非難された。だが、風評被害を広めた学者不信にも、メディア側の致命的な伝達力不足がある。
「御用学者」と罵倒された人も含め、専門家に取材した筆者、コータリがたどり着いた答えは、放射能漏れは危険レベルでも安全レベルでもないというものだ。つまり、ほとんどわからないということだ。
放射能は遺伝子を破壊する。また細胞を破壊することによって人体にストレスを与える。この両者によって、一度に大量被曝すれば重大な症状が出る。原爆後の広島市爆心地付近へ入って紫の斑点を出しながら亡くなった兵士のようなケースだ。一方、同じ線量を浴びても、長い年月をかけたものであれば影響はわかりにくい。部分的に破壊された遺伝子は自己修復するからだ。これは理論だ。
では実際、国が定める基準値以上の放射能を浴びるとどうなるかは、わからない。なにを素人がと言われようが、学者が拠り所にする被曝データは広島、長崎、チェルノブイリのわずかなものしかないからだ。
はっきり言うべきではないか。放射能被曝と人体への影響は、細かい数値で本当らしく説明するほどにはわかっていないのだと。
ここで、メディアの別の欠陥がわかってくる。出世競争にともなう政治家との癒着以外に、スタッフが受験戦争を勝ち抜いた点取り虫しかいないことだ。
「わからない」とは口が裂けても言わない。知識の欠落を疑われれば、無関係なデータを並べて相手を翻弄しようとする。同じく点取り屋でメディアよりは少し偏差値が高い官僚のやり口と一緒だ。
原発事故後の新聞紙面を見ればいい。原子炉の図解があり、放射線表があり、あらゆる専門家のコメントがあり、それでいて、とっくの昔にメルトダウンしていた事実を伝えるのは後回し。
あとは個々人が判断するしかないって? わかりにくい隠蔽競争をしておいて、判断などできるか?
お分かりでしょう。ニュース記事や番組が何を伝えているのかわからなかったのはあなただけではない。書いたり、しゃべったりしている当のマスメディアが、悲しいほどにわかっていなかったのだ。
※SAPIO 2011年8月3日号