プロ野球のロッテ・阪神、米大リーグのヤンキースなどで活躍した伊良部秀輝氏が、7月27日、米ロサンゼルス近郊の自宅で亡くなった。42歳だった。そんな伊良部氏が野球人生でもっとも怒りを覚えたのは何だったのか。日本球界復帰後、阪神在籍中の伊良部氏の本音を聞き出した、元巨人の投手・橋本清氏はこうリポートしていた。この年、結果的に阪神はセ・リーグ優勝を18年ぶりに果たす。(週刊ポスト2003年5月30日号より)
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阪神優勝のために最大の障害として伊良部が意識しているのは、意外にも広島打線だというからボクは驚いた。伊良部に負けはつかなかったが、(2003年)4月26日の広島戦で3回までわずか1安打に抑えていたのに、4回に乱れ、6回までに6失点。この件が頭にきている。
「調子は最高に良かったんや。ストレートは走っとったし、緩いカーブも決まってた。それなのに広島の打者はみんな踏み込んできよった。なめられたもんや。これが悔しくてしょうがなかった。あんなに頭にきたのは15年の野球人生で初めて。4回に突然調子が狂ったのは、そのせいなんだよ」
伊良部にとって怖いのは、重量打線の巨人ではなく、どんどん怖がらずに踏み込んでくる広島だという。踏み込まれるのが嫌なら、内角の厳しい球を投げるしかないんじゃないか。当然、ボクはそう伊良部にいった。
「確かにこのままじゃいかんけど、今はナメられないためにと相手をのけぞらせるような飛び道具は使えんのや」
そして、その理由を聞いてもう一度ビックリした。
「今のオレには微妙なコントロールにズレがあるから、インコースに放った球が相手にブツかることもある。ブツけたら当然仕返しが来る。そうなると、せっかく育ちかけている藤本(敦士)や赤星(憲広)といった若手がケガをしたり、調子を崩してしまったりすることにもなりかねん。阪神に出てきた新しい芽を、オレの手で摘み取ってしまうようなことになるのは耐えられん。だから相手にはブツけられんのよ」