国内

節電訴えるTVはピーク時に交代で放送自粛すべきと内田樹氏

「ちょうど地震や火事で、家の外装が剥がれたときに、家の構造が露出するように、危機的なときにはじめてシステムの基本構造はあらわになる」「おそらくあと数年のうちに、新聞やテレビという既成のメディアは深刻な危機に遭遇するでしょう」――こう語るのは、ベストセラー『街場のメディア論』(光文社新書)で現代日本のマスコミの本質的な限界を“予言”した神戸女学院大学名誉教授・内田樹氏だ。そんな同氏が、震災後のテレビ・新聞報道の問題点を論じる。

 * * *
 最近のマスコミについての私見を述べよというのが編集部からの依頼ですが、実は僕はもう何年も前からテレビをほとんど見なくなっています。放送されるコンテンツの質は下がる一方で、どの局も同じような内容ばかり流していて識別不能だからです。
 
 本来、メディアはピアー・レビュー、すなわち同じ専門領域をカバーしている同僚(ピアー)による相互的な査定(レビュー)を通じてその質を担保するはずなんですが、テレビではそれが行なわれていない。テレビのレベルを維持するのは、新聞など他のメディアの責任でもあると思うのですが、新聞社はどこも、系列のテレビ局と繋がっているから、番組宣伝を垂れ流すだけで内容的な批判は一切しない。メディア相互の批判がないのだから、劣化するのは当然なんです。

 今回の震災・原発事故・政局報道でも、マスコミの自己批評・自己点検能力の劣化が浮き彫りになったと思います。

 たとえば、15%節電。電力不足問題について、テレビはまるで市民的常識を代表するような口調で節電を呼びかけていますが、そのテレビ放送自体が莫大な電力を使用していることについては触れない。

 テレビ局が制作放送にかける電力も巨大な量ですし、各家庭の受像機も大量の電気を食っている。それほど節電が緊急だと思うなら、テレビ放送そのものを抑制すればいいというアイディアは誰も出さないのですか。「クーラーの設定温度を調整して、なんとか乗り切りましょう」とか被害者面して言うんじゃなくて、各局で話し合って放送しない時間を設定すればいいじゃないですか。

 電車を間引き運転したり、駅のエスカレーターを止めたりすれば、ダイレクトに市民生活に影響が出ます。そのせいで生活に支障が出る人はたくさんいる。でも昼間のテレビ放送なんかチャンネルが二つ三つ減ったからと言って、それで市民生活に深刻な支障が出て困る人なんかいないでしょう?

 電車やエスカレーターを止めるぐらいだったら、まずテレビを止めればいい。僕が子どもの頃はテレビ放送は朝と夕方以降だけでした。昼間はテストパターンが流れていた。それでいいじゃないですか。午後2時が消費電力のピークだというなら、午後2時前後に交替で放送を自粛すれば、ずいぶん節電になるんじゃないですか。そんなことはできないし、すべきではないという言い分があるならテレビ自身がその理由を視聴者に開示すればいい。

 だいたい、国民が今、一番知りたがっている震災や原発についてのニュースは、どの局も官邸、東京電力、原子力安全・保安院といったソースからの情報をそのまま流しているし、その分析解説に局ごとの個性や特色があるわけでもない。みんな横並びじゃないですか。だったら民放とNHKを合わせて6局も7局も要らないじゃないですか。

 テレビの人たちは「テレビ局はこんな数要らない」ということをもうわかっていると思います。横並びで、個体識別できないような番組を作っているんですから。みんな横並びで同じ程度に質が悪いから、どこの局から淘汰されるべきかが決められない。

 今のテレビの相互模倣を見ていると、群れにまぎれこんで見分けがたくなることで生き延びようとしているようにしか僕には見えない。どんなことがあっても日本国民のために、わが局だけは石に囓りついても放送を続けたいと真剣に考えているテレビ局があるように僕には思えません。

※SAPIO2011年8月3日号

関連キーワード

トピックス

各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン
理論派として評価されていた桑田真澄二軍監督
《巨人・桑田真澄二軍監督“追放”のなぜ》阿部監督ラストイヤーに“次期監督候補”が退団する「複雑なチーム内力学」 ポスト阿部候補は原辰徳氏、高橋由伸氏、松井秀喜氏の3人に絞られる
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
メキシコの有名美女インフルエンサーが殺人などの罪で起訴された(Instagramより)
《麻薬カルテルの縄張り争いで婚約者を銃殺か》メキシコの有名美女インフルエンサーを米当局が第一級殺人などの罪で起訴、事件現場で「迷彩服を着て何発も発砲し…」
NEWSポストセブン
「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年11月6日、撮影/JMPA)
「耳の先まで美しい」佳子さま、アースカラーのブラウンジャケットにブルーのワンピ 耳に光るのは「金継ぎ」のイヤリング
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン