高金利でFX(外国為替証拠金取引)投資家の人気が高い南アフリカ・ランドや、通貨選択型ファンドで注目を集めているブラジル・レアル……。こうした「新興国通貨」の特徴について、外為どっとコム総研代表取締役社長・主席研究員の植野大作氏が解説する。
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私が為替関係の仕事を生業にし始めた12年以上前、日本のお客様から新興国通貨について質問されることはほとんどありませんでした。それが最近では、南アフリカ・ランド、ブラジル・レアル、中国人民元などについての見解を求められる機会が増えてきています。長引く超低金利に促された日本人投資家の国際分散投資の裾野が地球的規模で拡大する中、投資信託などを通じて新興国にも資産の一部を配分する人が増えていることが背景だとみられます。
一般に、新興国の通貨には先進国では期待できない高い金利や経済成長の魅力がある一方、それに見合った投資のリスクも共存しています。それら損益機会の特徴に照らして分類すると、新興国通貨には以下に示す3つのタイプがあるように思えます。
第1は、「豊富な天然資源」の存在が、投資家の資金を惹きつける誘因になっている国々の通貨群です。このグループに属する代表的な新興国通貨としては、南アフリカ・ランド、ブラジル・レアルなどが挙げられます。
周知のように、日本は食糧の自給率が低い上、エネルギーや鉱物資源の輸入依存度も極めて高いことで知られています。我々が「資源国通貨」に投資した場合、「資源価格の変動に投資損益が左右される」というリスクを負うことになりますが、資源輸入国に暮らしている日本人が資源輸出国の通貨に分散投資するという行動は、長期的なリスク分散の観点から理にかなっているといえます。
第2は、先進国を凌駕する高い経済成長が、その国が抱える豊富な人口と相まって、「経済大国への変貌期待」を喚起している国々の通貨群です。この範疇に属する代表的通貨としては、中国人民元やインド・ルピーなどを挙げることができます。これら両国はともに天然資源が輸入超過なので資源輸出国ではありませんが、「かつての日本並みの高度成長を遂げて経済が発展する」というイメージが、人口減少社会に生活している本邦投資家の琴線に触れ、投資意欲を惹起する誘因となっています。
ただし、現時点では債券市場の整備が不十分な面もあり、日本人のお金が流入する先は主に株式投資が中心になっているようです。よって長期的に見た場合、当該国に投資して儲かるか損するかは、通貨価値の変動よりも株価の振幅に影響され易いというリスクがあります。
第3に、やや分かりにくいのですが、「短期的には高金利、長期的には構造改革期待」が投資家を惹きつける魅力の源になっている通貨群が存在します。トルコ・リラなどがその代表例です。資源国でもなく、人口大国でもないのに人気がある新興国通貨は、金利の高さで注目されることが多いのですが、そうした通貨は大概この範疇に属しています。
トルコを例にすると、新興国特有の高い経済成長は見込まれますが、資源輸出や経済規模の面での圧倒的な強みはありません。将来ユーロへの参加を目指して構造改革を進めていますが、国の信用力がまだ低いので高い金利でないと借金できないという国です。
要するに、第3グループに属する通貨群の高い金利は「構造改革の成否に対する不透明感」の反映という面があり、投資家は信用リスクの対価として高利回りを享受している面があります。このような通貨に投資した場合の本当の醍醐味は、高い金利収入もさることながら、構造改革が成功して国の信用力が向上するときに生じる債券価格や通貨価値の値上がり益を得ることにあります。
トルコ・リラを引き合いに出すならば、構造改革が頓挫した場合のリスクもあるので、金利の高さだけに注目するのではなく、「ユーロ参加を目標に構造改革に取り組んでいるトルコの人達の頑張りを、どれだけ信用して応援する気になれるかどうか」を基準に、投資の是非を決めるのが望ましいといえます。
※マネーポスト2011年7月号