東京新聞(11年3月24日付)には「東日本大震災 ボランティア『仕事ない』希望者殺到」という記事が載った。ボランティアの受け付けで3時間以上待たされた男性が、「こんなに待たされるとは。仕事する前に疲れちゃいました」と語り、事務の仕事を割り当てられた女子高生が、「被災者と触れ合えるような仕事が良かった。事務作業なら応募しなかったのに」と落胆していたと報じている。震災ボランティアに対する反応は様々だが、こうしたボランティアのことを「モンスターボランティア」と呼ぶ向きも……。だが、一部のボランティアによる疑問符のつくような行動を「ボランティアに行かない理由」にするな、と指摘するのは、フリーライターの清水典之氏だ。以下、清水氏のレポートだ。
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被災地にはモンスターボランティアが押し寄せているようなイメージがあるが、実際はどうなのか。内閣官房震災ボランティア連携室の西田紫郎氏はこう答える。
「大勢の人間がいけば必ず何人か不心得者はいて、どうしてもそういう人たちは目立ってしまうもの。実際には本当にごく一部にすぎない」
東京新聞の記事にしたところで、誰でも3時間も待たされれば疲れるのは当たり前。女子高生がイメージしていたのと違う仕事で落胆したというのも微笑ましい話で、非難されるほどのことではない。
仮に就活ネタのため、自己満足のためであっても、ちゃんと働いて被災者の役に立ったのなら、何の問題もないはずである。5月の連休には何万人もの人々が被災地入りしたが、そのおかげで泥出しなどの作業が劇的に進んだのも事実なのである。
確かに、震災直後の段階で、モンスターボランティアのネガティブな話がネット上で拡散したことで、ごく普通の人が何も考えずに被災地入りしてモンスター化するのを防ぐ効果はあったと考えられる。
しかし、その一方で、「素人は被災地に行ってはいけない」というムードを作り出してしまったのも事実だ。
関西学院大学災害復興制度研究所・所長の室崎益輝教授は、ネットでモンスターボランティアの話が拡散した理由をこう分析する。
「ボランティアに行かなきゃいけないような雰囲気があるが、『自分は行きたくない』という人たちが、『素人が行ったら迷惑になる』という話を都合のいい言い訳として使っているだけです。ネット上には評論家ばかりで、『行くな、行くな』の大合唱。いつから日本人の人情はこんなに冷たくなったのでしょう」
心に突き刺さる話だ。
宮城や岩手、福島など各県の社会福祉協議会にボランティアが足りているかを訊ねたところ、まだまだ需要はあるという。ただ、泥出しのような人海戦術の作業はなくなりつつあり、仮設住宅への引っ越し作業や、仮設に移った被災者が孤立化しないための心のケア、民家や田畑の清掃作業など、ニーズが多様化している。
現地入りする場合は、事前にボランティアセンターに確認することを勧める。
『地震・災害ボランティア活動入門』(ふきのとう書房刊)の著者で、今回の大震災でも約3か月にわたって、岩手県宮古市の避難所でボランティアとして活動した角田四郎氏が語る。
「ボランティアは個人の意思でやるものですが、昔に比べると『ボク、何すればいいですか?』と聞いてくる甘えた人が増えたのは事実。ただ、『自分のような素人が被災地に行ったら、迷惑をかけるんじゃないか』と躊躇するような人は、絶対に被災地に迷惑をかけることはありません。迷惑になるかどうかなど一切考えない人がモンスターボランティアになる」
室崎教授も「若い人たちにとっては、腐った魚の凄まじい臭いがする現場を見るだけでも勉強になる」という。不純でない動機など世の中に存在しないのである。
※SAPIO 2011年8月3日号