ライフ

ボランティアを就活ネタにしようが被災者の役に立つならOK

 東京新聞(11年3月24日付)には「東日本大震災 ボランティア『仕事ない』希望者殺到」という記事が載った。ボランティアの受け付けで3時間以上待たされた男性が、「こんなに待たされるとは。仕事する前に疲れちゃいました」と語り、事務の仕事を割り当てられた女子高生が、「被災者と触れ合えるような仕事が良かった。事務作業なら応募しなかったのに」と落胆していたと報じている。震災ボランティアに対する反応は様々だが、こうしたボランティアのことを「モンスターボランティア」と呼ぶ向きも……。だが、一部のボランティアによる疑問符のつくような行動を「ボランティアに行かない理由」にするな、と指摘するのは、フリーライターの清水典之氏だ。以下、清水氏のレポートだ。

 * * *
 被災地にはモンスターボランティアが押し寄せているようなイメージがあるが、実際はどうなのか。内閣官房震災ボランティア連携室の西田紫郎氏はこう答える。

「大勢の人間がいけば必ず何人か不心得者はいて、どうしてもそういう人たちは目立ってしまうもの。実際には本当にごく一部にすぎない」

 東京新聞の記事にしたところで、誰でも3時間も待たされれば疲れるのは当たり前。女子高生がイメージしていたのと違う仕事で落胆したというのも微笑ましい話で、非難されるほどのことではない。

 仮に就活ネタのため、自己満足のためであっても、ちゃんと働いて被災者の役に立ったのなら、何の問題もないはずである。5月の連休には何万人もの人々が被災地入りしたが、そのおかげで泥出しなどの作業が劇的に進んだのも事実なのである。

 確かに、震災直後の段階で、モンスターボランティアのネガティブな話がネット上で拡散したことで、ごく普通の人が何も考えずに被災地入りしてモンスター化するのを防ぐ効果はあったと考えられる。

 しかし、その一方で、「素人は被災地に行ってはいけない」というムードを作り出してしまったのも事実だ。

 関西学院大学災害復興制度研究所・所長の室崎益輝教授は、ネットでモンスターボランティアの話が拡散した理由をこう分析する。

「ボランティアに行かなきゃいけないような雰囲気があるが、『自分は行きたくない』という人たちが、『素人が行ったら迷惑になる』という話を都合のいい言い訳として使っているだけです。ネット上には評論家ばかりで、『行くな、行くな』の大合唱。いつから日本人の人情はこんなに冷たくなったのでしょう」

 心に突き刺さる話だ。

 宮城や岩手、福島など各県の社会福祉協議会にボランティアが足りているかを訊ねたところ、まだまだ需要はあるという。ただ、泥出しのような人海戦術の作業はなくなりつつあり、仮設住宅への引っ越し作業や、仮設に移った被災者が孤立化しないための心のケア、民家や田畑の清掃作業など、ニーズが多様化している。

 現地入りする場合は、事前にボランティアセンターに確認することを勧める。

『地震・災害ボランティア活動入門』(ふきのとう書房刊)の著者で、今回の大震災でも約3か月にわたって、岩手県宮古市の避難所でボランティアとして活動した角田四郎氏が語る。
 
「ボランティアは個人の意思でやるものですが、昔に比べると『ボク、何すればいいですか?』と聞いてくる甘えた人が増えたのは事実。ただ、『自分のような素人が被災地に行ったら、迷惑をかけるんじゃないか』と躊躇するような人は、絶対に被災地に迷惑をかけることはありません。迷惑になるかどうかなど一切考えない人がモンスターボランティアになる」

 室崎教授も「若い人たちにとっては、腐った魚の凄まじい臭いがする現場を見るだけでも勉強になる」という。不純でない動機など世の中に存在しないのである。

※SAPIO 2011年8月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン