民主党の岡田克也・幹事長、仙谷由人・代表代行らが率いる執行部派が、自民党に共闘を呼びかけて「菅降ろし」を本格化させている。 こうした岡田氏と仙谷氏の策謀は、すんなり成功するのか。
執行部派の攻勢に押されているかに見える菅首相だが、この人物は追い詰められるとバルカン政治家(「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれた東欧バルカン半島の政治家たちが、小国同士のせめぎ合いの中で現実重視の妥協を重ね安定を模索したことになぞらえ小派閥を率いて政界を巧みに渡り歩く政治家を指す)の本領を発揮する。
菅降ろしのキーマンと目されているのが海江田万里・経産相だ。玄海原発の再稼働問題で菅首相と激しく衝突した海江田氏は、「再生可能エネルギー法案が成立すれば辞任する」と公言している。法案成立のタイミングはまさに「8月上旬」で、仙谷氏は閣僚辞任を機に菅首相に退陣を迫ろうと海江田氏に接触し、「菅と刺し違える覚悟があるか確かめた」(仙谷ブレーン)という。
それを察知した菅首相は海江田氏の懐柔工作に乗り出した。
「食事を一緒にどうか」
「週末でもいいから」
断わっても断わっても、「執拗な会食の誘いの電話がかかってくる」とは海江田サイドの証言である。
そして、菅首相は最大の政敵にもアプローチを始めた。首相就任以来、徹底的に排除してきた小沢一郎・元代表である。さる7月19日の民主党常任幹事会での出来事だ。
党員資格停止処分を受けた小沢氏は、これに不服を申し立てた。党政治倫理審査会は、申し立てを却下しつつも、「被災地の復興に向け、岩手県選出の国会議員として働くことができるよう、執行部に配慮を望む」という付帯意見をつけた。
小沢支持派は「具体的にはどんな活動ができるのか」と迫る。すると倫理委員長の渡部恒三氏はうんざりしたように、「文句をいうなら付帯意見を取り消すぞ」と恫喝した。その時、「付帯意見は重く受け止めるべきだ」と反論したのは、意外にも菅氏の側近である鉢呂吉雄・常任幹事会議長だった。
「鉢呂さんの意外な裁定に執行部は怪訝(けげん)な表情だった」(出席者)
首相本人も動いた。26日夜、小沢支持グループ「一新会」メンバーの内山晃氏の会合に飛び入り参加したのである。
内山氏は小沢氏とともに菅内閣への不信任案採決に欠席し、内閣改造で総務政務官を解任された人物だ。当日は総務省職員が慰労会を開いていた。そこに辞めさせた本人が出席するとは常識では考えられないが、菅首相は2時間、和気藹々(わきあいあい)と慰労会を楽しんだ。
「慰労するならクビにしなければいいのに……」
内山氏はそう首を傾げていた。
菅首相にとって、小沢氏や鳩山由紀夫・前首相が執行部の退陣工作に加担すれば絶体絶命である。側近の鉢呂氏が小沢氏を擁護し、菅氏が小沢側近の会合で愛想を振りまく行動は、小沢氏に秋波を送る行動と見て間違いないだろう。
その小沢氏は、28日の会見で岡田氏のマニフェスト謝罪に対し、「間違ってました、サヨウナラ、では嘘つきになってしまう」と批判。鳩山氏も「魂を売り渡すようなことをしてはならない」と、矛先を官邸よりも執行部に向けている。
もちろん、2か月前に「ペテン師」とまで罵倒するに至った溝は、簡単に埋まるほど浅くない。それでも民主党内は、大連立に奔り出した岡田―仙谷執行部に対し、はからずも小沢氏、鳩山氏、菅氏というかつてのトロイカが対峙する構図になりつつある。
にわかに「8月政局」が風雲急を告げている――。
※週刊ポスト2011年8月12日号