まもなく今年も高校野球の甲子園大会が始まるが、高知の明徳義塾・馬淵史郎監督は今年で監督生活21年。計21度の甲子園出場で通算36勝20敗。2002年夏には優勝旗を取った高校球界きっての名将をインタビューした。
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──馬淵監督といえば、1992年大会の対星稜(石川)戦の「松井秀喜5連続敬遠」を語らずにはいられません。
「そやね。おかげさまで有名になりました。私は今でも間違った作戦だったとは思っていない。あの年の星稜は、高校球児の中に1人だけプロがいるようなものだった。あれ以前も、あれ以降も、松井くんほどの大打者と僕は出会っていません。甲子園で勝つための練習をやってきて、その甲子園で負けるための作戦を立てる監督なんておらんでしょ? 勝つためには松井くんを打たせてはいかんかった」
──高校野球ファンの心理を逆撫でしたのは、7回表2死無走者の場面でさえ、松井選手を歩かせたことでした。
「その時点で3-2だったでしょ。これが2点差だったら、ホームラン打たせてやりましたよ。しかし、1点差だった。もしホームランを打たれたら同点になるわけですよ。たとえヒットで終わったとしても、松井くんが打つことによって他の選手が勢いづく。そういう波及効果も恐れていました。
僅少差の展開では、たとえ2死であっても歩かせることのリスクは大きいんですよ。敬遠は逃げじゃない。そこは理解してもらいたい。ただ、選手は監督の作戦に従っただけなんだから、子供たちへのバッシングはかわいそうだった。子供たちに申し訳ないことをしたと思っています」
──当時のナインに対する負い目があるということですか。
「それはない。負い目があったら監督を続けていません。あんな作戦を取って負けていたら監督を辞めていたでしょうが、勝ったわけやからね。
そもそも私は野球のルールを犯したわけやない。松井くんと勝負して抑えられるとしたら、インコースの高めしか打ち取る方法はなかったはずです。だけど胸元だけを攻めて、デッドボールを当ててケガでもさせてしまった方がよっぽど汚い野球だと思いますよ。
野球では『盗塁』とか『刺殺』というように、盗むとか殺すといった不謹慎な言葉が使われている。その中でキレイな言葉といったら『敬遠』ぐらいのものですよ。人を敬うからこそ敬遠なわけです」
※週刊ポスト2011年8月12日号