夏に入っても堂々と「春」を主張し続ける、NHK『ニュースウォッチ9』のお天気キャラクター、「春ちゃん」。その姿が、7月末、なぜかばったりと画面から消えた。オタクからも「オタクに媚びすぎ」「萌え路線に走った」と指摘が上がったキャラクターに何が起こったのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏の視点は、こうだ。
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水打ち、風鈴、浴衣、うちわ、かき氷に冷や奴。すだれを通り抜ける光、爽やかな水音を楽しむ感性。日本の文化は長い間、「季節感」というものを何よりも大事にしてきました。
特に今年は、できるだけ電気を使わず、耳と目、五感から涼をとる知恵を駆使しようと、日本中が格闘しています。そんな日本の文化的感性に対して喧嘩を売るような大胆なキャラクターに、驚かされました。
夏に入っても堂々と「春」を主張し続ける、NHK『ニュースウォッチ9』のお天気キャラクター、「春ちゃん」。あえて季節のミスマッチを楽しんでいるのでしょうか。額には「春」の大文字。お人形さんのような甲高い声、巨大な瞳にカールした髪の毛、ギリシャの女神風?ワンピース。まさか、「暑さ苦しさ」を強調しようとしているなんてこと、ありえないですよね。
真夏なのに「春」の文字の違和感もさることながら、ねっとりとからみつく甘い声が、実に暑苦しい。これは間違いなく、声優によって演出された声色です。それゆえ、「春ちゃんの声は誰か」とアニメオタクの間で話題が沸騰。後日、アニメ界で人気の声優、豊崎愛生さんの声だとNHKが公表しました。アニメファンの心を掴む話題作りも、手が込んでいます。
もちろん、「春ちゃん」の活躍は、テレビの中だけではありません。NHKのキャラクターショップでは、フィギュアやぬいぐるみなどに変身して人気を集めているらしい。節電の夏、「涼感」を犠牲にしてまで視聴率や収益をあげたい、という公共放送局の焦りと危機感のあらわれでしょうか。そこまでするNHKの姿に、オタクからも「オタクに媚びすぎ」「萌え路線に走った」と指摘が上がったほどです。
ところがなぜか7月末、「春ちゃん」の姿がぱったり消えました。新潟・福島地方に記録的豪雨が降り、40万人近くが避難勧告を受けた時期。災害時に脳天気な萌えキャラに気象予報をさせるわけにはいかない、という公共放送の「賢い判断」のせいかもしれません。
考えてみれば、朝の番組をはじめとして、気の利いた一言も言えないまま公共放送のレギュラーに居座っている芸能人より、「春ちゃん」の方がずっと扱い易いですよね。都合が悪い時は、さっさと画面から消してしまえばいいとすれば。
「キャラクターの人権なんて無視」というそんなNHKの姿勢に、ファンの方々はどう感じているのでしょうか?
いよいよ8月に入り、また「春ちゃん」が画面に戻ってきました。盛夏の中で一層、ミスマッチ感たっぷりに自己主張する「春ちゃん」の存在、注目していきたいと思います。