ライフ

香山リカ氏 沖縄の基地ガイドに「なぜ沖縄だけがこんな…」

【書評】『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること 沖縄・米軍基地観光ガイド』(須田慎太郎写真・矢部宏治文・前泊博盛監修/書籍情報社/1365円)
【評者】香山リカ(精神科医)

 * * *
 あくまで訪問者としてとらえた「静かなガイド」だ。

 なんといっても写真が美しい。ページをめくるたびに現れる青い海、白いビーチ、広大な芝生と整備された道路、小型の飛行機。海外の旅行ガイドなのだろうか。しかし、これはすべて外国やリゾート地ではなく、日本の沖縄の米軍基地の写真だと言われて息をのむ。

 沖縄本島を占める米軍基地の面積は、18.4%にも上る。海兵隊基地が多くを占めるが、巨大な嘉手納空軍基地や通信基地や弾薬庫など、周辺の島も含めると関連施設はおよそ30にもなる。

 それをすべて訪ね歩き、周辺のスポットも含めてできる限りを写真に撮って、地図などの基本データを載せる。その繰り返しがひたすら続く。内部に潜入することはなく、すべてはゲートのはるか手前やフェンス越し、あるいは高台からの写真である。重要な建物も軍の人間も機密事項も、何も写っていない。途中、観光スポット案内や基礎知識を記した文章も挿まれているが、基本的には静寂さえ漂ってくるような「基地ガイドブック」なのだ。

 いったいなぜ、こんな本を作ろうと思ったのか。著者は言う。熱狂のうちに政権交代が実現し、沖縄基地問題などで迷走してあっという間に鳩山内閣は終わった頃、「沖縄の基地を見てみようか」と思いついたからだ、と。しかし著者には、予備知識も人脈もまったくない。カメラマンを頼み、基地のホームページから資料を引き出しながら、ただただ自力で沖縄を回り、写真を撮って近くの住民たちに話を聞いた。その結果がこの「静かなガイド」ということだ。

 沖縄にも基地にも深く入り込むことなく、あくまで訪問者としてとらえると、米軍基地とはこう見えるものなのか。何も準備がなくてもここまでは行けるのか。心を無にしてページを繰っていると、いろいろな考えが浮かんでくる。そして、素朴にして究極の疑問につき当たる。なぜ、沖縄だけがこんなことになっているのか……。

 大震災に揺れた日本だが、もう一度、心をまっさらにして基地問題を考えてみたい。そのためにうってつけの一冊だと思う。

※週刊ポスト2011年8月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

再ブレイクを目指すいしだ壱成
《いしだ壱成・独占インタビュー》ダウンタウン・松本人志の“言葉”に涙を流して決意した「役者」での再起
NEWSポストセブン
名バイプレイヤーとして知られる岸部一徳(時事通信フォト)
《マンションの一室に消えて…》俳優・岸部一徳(77) 妻ではないショートカット女性と“腕組みワインデート”年下妻とは「10年以上の別居生活」
NEWSポストセブン
ラフな格好の窪田正孝と水川あさみ(2024年11月中旬)
【紙袋を代わりに】水川あさみと窪田正孝 「結婚5年」でも「一緒に映画鑑賞」の心地いい距離感
NEWSポストセブン
来春の進路に注目(写真/共同通信社)
悠仁さまの“東大進学”に反対する7000人超の署名を東大総長が“受け取り拒否” 東大は「署名運動について、承知しておりません」とコメント
週刊ポスト
司忍組長も傘下組織組員の「オレオレ詐欺」による使用者責任で訴訟を起こされている(時事通信フォト)
【山口組分裂抗争】神戸山口組・井上邦雄組長の「ボディガード」が電撃引退していた これで初期メンバー13人→3人へ
NEWSポストセブン
『岡田ゆい』名義で活動し脱税していた長嶋未久氏(Instagramより)
《あられもない姿で2億円荒稼ぎ》脱税で刑事告発された40歳女性コスプレイヤーは“過激配信のパイオニア” 大人向けグッズも使って連日配信
NEWSポストセブン
俳優の竹内涼真(左)の妹でタレントのたけうちほのか(右、どちらもHPより)
《竹内涼真の妹》たけうちほのか、バツイチ人気芸人との交際で激減していた「バラエティー出演」“彼氏トークNG”になった切実な理由
NEWSポストセブン
ご公務と日本赤十字社での仕事を両立されている愛子さま(2024年10月、東京・港区。撮影/JMPA)
愛子さまの新側近は外務省から出向した「国連とのパイプ役」 国連が皇室典範改正を勧告したタイミングで起用、不安解消のサポート役への期待
女性セブン
第2次石破内閣でデジタル兼内閣府政務官に就任した岸信千世政務官(時事通信フォト)
《入籍して激怒された》最強の世襲議員・岸信千世氏が「年上のバリキャリ美人妻」と極秘婚で地元後援会が「報告ない」と絶句
NEWSポストセブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン