欧州の財政債務問題、アメリカ国債のデフォルト危機などを受けて円は震災直後から4か月ぶりに1ドル=76円台をつけた。こうした要因はあるもの円高基調が続く原因は何なのか。為替のスペシャリスト、松田トラスト&インベストメント代表の松田哲氏が解説する。
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2007年6月から現在まで約4年間続いている米ドル安・円高トレンドに変化はない。甚大な被害を出した東日本大震災、収束のめどが立たない原発事故は明らかな円安材料なのに、なぜ円安に進まないのかと多くの人が疑問に思っていることだろう。
欧州の財政不安の強まり、米国の景気や財政への懸念などでリスク回避マネーが円に流入していることが背景にあるが、円高が続行してきた主な原因の一つには中国の存在も考えられる。
本来ならば日本から資金が逃げ出してもおかしくなく、実際、円安方向に力が働いている状況にある。
ところが、そうした円売りをすべて吸収しているのが中国の外貨準備としての円買いである。米ドル一辺倒で外貨準備を続けてきた中国がその弊害に気がつき、様々な資産分散投資の一環で日本円を買い続けているのだ。株式や債券の専門家によると、中国は日本株と日本国債も買っており、保有残高は着実に増えているという。外為市場においても円を買わないわけがない。中国が外貨準備をドルから円へシフトする傾向は、この先も当面、変わらないはずだ。
とはいえ、この中国要因だけでは、1ドル=70円台という一段高いステージにはそう簡単には上がらないだろう。中国が発展していくのは間違いないが、現在、中国経済の減速感が強まっており、バブル状態がいったん調整に入れば、相対的にドルが台頭してくることになる。
また、世界的にコモディティ(商品)価格が下落基調にあり、欧州では財政危機問題でユーロ安が進行すると思われる。これらはともにドル高を意味する。米国の体力が回復してくるのならば、今年後半以降にドル高トレンドが顕在化することも考えられる。
※マネーポスト2011年9月号