電力は貯められない以上、昼間のピーク時以外の節電は無駄である。行き過ぎた節電はさまざまな弊害をもたらすと獨協大学教授の森永卓郎氏は警鐘を鳴らす。
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政府は東電・東北電管内の大口需要家に対し電力使用制限令を発令し、15%消費削減を義務づけ、関電管内には10%削減の「要請」を出した。しかし、電力が不足しているから電気代を上げるというのなら企業も対処のしようがあるが、節電を強要するというのは「社会主義」であり、こういう総量規制をすると経済は収縮を招く。その被害を受けるのはやはり弱者なのだ。
2011年3月の鉱工業生産指数は、前月比で15.5%も落ち込んだが、5月にはプラス6・2%と回復していた。復興需要が立ち上がっているのだ。ところが、国内メーカーの生産計画から算出される製造工業生産予測調査の数値は、6月はプラス5・5%だったが、7月はプラス0.5%にダウンした。電気使用制限令の影響で急激にブレーキがかかっているのである。
自動車や家電などの工場では「夏季休業の延長」を予定しているところも多いが、操業時間の短縮は、派遣や契約で働いている若者たちにとっては収入減に直結する。「輪番操業」や「サマータイム」など操業日時の変更なら影響はないかというと、そうでもない。子供を託児所に預けて働いているパートの女性などは、勤務時間が変わったり、土日出勤になったりして託児所が対応してくれないと働けなくなる。
大企業の場合は輪番操業で休日が平日に変わったとしても、とりあえず休みが取れるが、下請け企業はそうはいかない。昔は「系列」が決まっていたが、今はトヨタにも日産にも部品を納めるのが当たり前なので、全日操業になりかねない。それで15%削減を強制されれば、自家発の導入など高コストな対策をとらざるを得ず、経営を圧迫される。節電の弊害は大企業よりも中小企業の方が大きいのである。
※SAPIO2011年8月17日・24日号