東日本大震災に苛まれて、一時は日本の自動車産業全体に急ブレーキがかかった。だが、徐々回復基調が鮮明になりつつある。その中でも、反転攻勢いちじるしいのがカルロス・ゴーン社長率いる日産自動車だ。経営コンサルタントの大前研一氏がその強さの秘密を分析する。
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日産は日本でホンダと2位を争い、アメリカでもヨーロッパ勢に比べれば強い。世界的にもトヨタが低迷する中で伸びている。中国をはじめとする新興国や途上国で躍進しているからだ。これは良い意味で日本人の神経を持っていないゴーン社長のお陰だと思う。
日本人の経営陣は、新興国や途上国に突っ込んでいくのはリスクが高いという発想になって腰が引けてしまう。しかし、ブラジル生まれでレバノン育ちのゴーン社長には、そういう恐れはないようだ。それどころか彼のグローバルな視点から見れば、未知の市場はリスクではなくチャンスと映るのだろう。だから新興国や途上国に積極果敢に進出する世界戦略を展開しているのだと思う。
たとえばコンパクトカー「マーチ」は、今やすべてタイ製だ。内外に強力なライバルが多いマーチは価格を上げられないため、人件費が高い日本で生産していたらコスト競争力がなくなる。したがってゴーン社長は、タイで日本と同じ品質の商品が生産できるようになったら、さっさと日本の工場を閉め、日本市場向けもタイからの「逆輸入」にして、100万円切りの低価格を実現したのである。
これほどドライな決断は、日本人の経営陣だと、そう簡単にできるものではない。そこがBRICs(Brazil,Russia,India,China)で大きく出遅れたトヨタとの違いであり、東日本大震災後に下がった株価が日産は回復しているのにトヨタは回復していないという株式市場の評価にもつながっている。
「世界の最適地で作って最も有力なマーケットに届ける」ことがボーダレスワールドにおけるグローバル化の鉄則だ。そう私は1989年から口を酸っぱくして言ってきたが、まさにゴーン社長はそれを実践しているわけだ。
※SAPIO2011年8月17日・24日号