世界中の自動車メーカーが、HV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)の開発にしのぎを削る中、敢えてガソリンエンジンの改良で、エコカー市場に勝負を挑むマツダ。その低燃費エンジンを搭載した1号モデルが、世界中の注目を浴びて、発進した。
発売前の事前予約は、6500台を超えた。これまでの月間販売台数の150%以上。6月30日、マツダから発売になった『デミオ』が絶好調だ。話題の中心は、ガソリン1リットル当たりの走行距離が30kmと、ハイブリッド車(HV)並みの低燃費を実現した1.3リットル直噴ガソリンエンジン「スカイアクティブ-G1.3」搭載車。軽自動車と比較しても、ガソリンエンジンでは国内最高だ。
しかし、時代の潮流がHVやEVに走る中、なぜ同社は新ガソリンエンジンの開発にこだわったのか。『デミオ』の産みの親、マツダプログラム開発推進本部主査・水野成夫氏は「目指すクルマの本質の問題です」と切り出した。
「HVで1リットルあたり30kmの低燃費を実現させると、ガソリン車に比べ、重量が120kgも重くなります。これはクルマの大切な要素、“心地いい走り”が犠牲になる。その数値をガソリンエンジンで達成することができたら、心地よい走りと低燃費が融合できるのではないかと考えました。
私のモットーは『期待以上の成果にこそ、価値がある』。開発陣の仕事は周囲の期待を、良い意味で裏切ること。そこに驚きと真の価値があると信じています」
発明から120年。エンジンの心臓部である内燃機関(内部で燃料を燃焼させて動力を生み出す機械)に、手を加える余地はほとんどないと考えられていた。だが、マツダの開発陣は敢えてそこに狙いを定めた。HVやEVに行く前に、もう一度ガソリンエンジンを根本的に改善することに新機軸あり、と考えたのだ。
※週刊ポスト2011年8月12日号