蛍光イエローのキャップに、ラガーシャツ。甲子園中継では常に異様な出で立ちの彼を確認できるはずだ。「ラガーさん」の愛称で知られる善養寺隆一氏は、甲子園期間中、ネット裏にほど近い8号門の前で寝泊まりしている。開門と同時に席確保に走り、ネット裏最前列、ちょうど右バッターボックスの背後に陣取る。
今春選抜準々決勝終了後、8号門前でのインタビューをお願いしていた。しかし、約束の時間になってもラガーさんはなかなか現れない。
「いやぁ、すみません。ちょっと洗濯に行っていて遅れちゃいました、洗濯や銭湯に行っている間は、他の仲間が並んでくれるんです。毎日、段ボールを敷いて寝ていますよ。えっ? ラガーシャツを何枚持ってきているかって。えーっとね、ちょっと待ってね、うん、10枚ぐらいかな、4試合あれば試合前と5回のグラウンド整備で着替えるから、一日7回は着替える計算になるよね。ほら、ファンがいてくれるから、楽しませなくちゃいけないでしょ」
エッ、ファンがいる!?
「なんだか有名になっちゃってさ。結構、握手してくれって言われるんですよ(笑)」
のっけからマシンガントーク炸裂のラガーさんである。春夏の甲子園を全試合観戦する彼は東京・巣鴨にある実家の印刷所で働いているという。
「ちょっとまずいっすよねえ。年間1か月は甲子園に暮らしているわけですから。親父やお袋は呆れかえっています」
甲子園に常駐するようになったのは10年前から。その魅力は「生の迫力」に尽きる。
「選手が全力でしょ。最後まで諦めずに一球に懸ける。その戦いに一緒に参加したいの。特に夏は、たくさんの感動がある。大会終了時にはプレゼントをもらった気がします」
しかし大会が行われる15日間、日中を炎天下で過ごすのは相当の体力がいるだろう。
「僕は暑いのが苦手なの(笑)。でもね、やめられません」
平時は全国の地方大会に足を運び、情報収集も怠らない。
「地方大会に足を運んで、マスコミがノーマークの選手を見つけて、実際に甲子園に出てきた時はうれしいよね」
ラガーさんは強豪校の条件を次のように明かした。
「良いピッチャーが1人いても優勝には届かない。やはり打力でしょ。点が入らないと勝てないわけだから。それと強いチームは基本的に礼儀正しいかな」
最後に「ラガーさんが高校球児だったらどの高校の野球部に入りたいか」と質問した。
「………………」
高校野球を、甲子園を愛し続けてきて、思い入れの強い高校がたくさんあるのだろう。逡巡した結果、答えの見つからないラガーさんだった。
※週刊ポスト2011年8月12日号