もはや「手抜き」というレベルを超えていた。テレビに新たな歴史が刻まれた7月24日。フジテレビは「FNS27時間テレビ」で地デジ時代の幕開けをした。
その目玉企画として放映されたのが、系列各局代表の素人が“歌の下手さ”を競うカラオケ大会「FNS歌へた自慢」だ。番組ハイライトは優勝した警備員が歌った「トイレの神様」だった。なんとノーカットで全8分30秒。
「小3の頃からなぜだか、お婆ちゃんと暮らしてた~」
歌い出しから司会を務めるナインティナインの岡村隆史らにクスクス笑いが漏れる。そして誰かの「こりゃ駄目だ」という声。音程は外れ、リズムは狂い、オリジナルを忘れさせるほどの“歌下手”ぶりは、もはや「晒しもの」に近い。
しかし、これだけならまだよかった――。照れ笑い一つせず歌い続けるひたむきさに心を打たれたという“演出”にのっとり、会場に泣きだす女性が現われたのである。
カメラは泣いた女性をクローズアップ。会場は一転しっとりムードになる。熱唱を終えると、「フルコーラスでございます。今回も奇跡が起きました!」と岡村が興奮気味に絶叫する。
そして拍手と大歓声。こんな“やらせ”に泣きも笑いもできるわけないが、流れてくる映像のあまりの異様さに、チャンネルを変えることも忘れていた。これはもはや「放送事故」ではないのか――。
編集も構成もないタレ流し。YouTubeに投稿された素人制作の映像の方がよほど気がきいている。最近のテレビはいったいどうなってしまったのか。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号