富士急ハイランドの鳴り物入り新大型コースター、「高飛車」。7月16日にオープンしたとたん、話題沸騰。灼熱の日差しの下、大行列ができている。その目玉は、「121度」の絶叫落下体験。ギネス記録を獲得した、世界一「えぐる」コースなのだ。作家の山下柚実氏が紹介する。
* * *
取材を理由に、何十年ぶりかでローラーコースターの座席に押し込まれてしまった私。じりじりと高所へ引き上げられ、世界一激しい落下にさらされるなんて。中年には耐えがたい身体感覚。目が回り、手が痺れる。
人を絶叫させるアミューズメント「商品」を、いったいどんな人たちが開発しているのか。ヒット商品を追いかけるこの連載では、命を削ってでも取材しなければ……。
「試行錯誤を重ねた後に、19回目のコースレイアウトでやっと完成しました」と、企画開発の中心メンバー、富士急行株式会社企画部・宮尾哲也氏(37)は言った。
「車両やレールなど機器はすべてドイツ製ですが、プロジェクトは5年間をかけて、私たちのチームで企画・開発してきました。121度の落下も、頂上での一時停止も、すべて我々のオーダーです」
宮尾氏は、限られた面積の中でより効果的なコースをデザインする、と言った。
「パズルを解く感覚ですね。あるいは映画作りにも似ているのかもしれません。コマが次々に切り替わっていくストーリーをいかに作るのか。どんな順番で、どんな体感刺激を組み合わせればよいか。いかに緩急つけるのか」
「世界一の落下角度」に話題が集まっているが、秘密はそれだけではなさそうだ。
乗車して、まず驚かされたのが暗闇の走行。闇に突入し、この先どうなるの? と不安を感じた頃、突如、時速100kmに加速。まるで体がジェット機になったかのように、千切れるくらいの勢いで車両が飛び出していく。
「ゆっくりとした暗闇からリニア加速へ。2秒間で100kmの速さにスピードアップし、そのギャップを強調しました。ひねり・回転も全部で7か所入っています。いったん速度を落とし、みなさんがほっとされた後に、もう一度、垂直巻き上げで43m上がって、121度の落下へ。乗車時間にすればたった2分40秒ほどですが、お客様に『お腹いっぱい』の満足感をと考え、あえて二部構成にしました」
技術的に追求すれば、速度はいくらでも出せる。でも、強い刺激を重ねるだけでは、本当の面白さには至らない。たとえば頂上で一時停止する奇妙な「間」は、精神的な困惑をより増幅させる。
「ただ怖いばっかりだったら、二度と乗っていただけないですよね。僕らが目指すのは、泣き笑い体験です。『すっごく怖くて、すっごく面白かった』という感想こそ、口コミになり、リピーターを生んでくれると思うので」
富士急ハイランドは、ご存じのように開園以来「世界一」を目指しアトラクションを揃えてきた。「FUJIYAMA」「ドドンパ」「ええじゃないか」の三大コースターは、導入する度に速度、高さ、回転数などでギネス記録を獲得。
そして今回の「高飛車」。だが、コースターでの漢字のネーミングは初めてだという。
「高い、飛ぶ、車というそれぞれの感じが持つストレートな意味が、アジアからの観光客、特に中国人のお客様にぴたっと伝わればいいな、と考えました」
※SAPIO2011年8月17日・24日号