新聞各紙がしきりに見出しに使う「菅降ろし」。紙面にこの威勢のいい言葉が飛び交うのはなぜなのか。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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菅直人首相が粘りに粘っている。一時は「6月中にも退陣」と言われたが、いまや夏どころか「ずっと辞めないのでは」と噂されるありさまだ。新聞やテレビは繰り返し、菅の退陣を求める岡田克也幹事長や仙谷由人官房副長官らの発言を報じてきた。いわゆる「菅降ろし」である。
新聞に「菅降ろし」のような威勢のいい言葉が飛び交うのは、政治記者は政治家の権力闘争が大好きだからだ。政治家同士が派手にドンパチしたりカメラの前で泣いたりすれば大きく扱うが、肝心の政策には関心が薄い。菅を倒せるかどうかが焦点になって、倒す側にどんな政策の代替案があるのかが二の次になってしまう。
国民にとって重要なのは、闘争よりも政策の中身と実行力である。言い換えれば、まともな政策をちゃんと進めてくれれば、だれが首相だろうとかまわない。菅は口先だけで実行力が伴わないからだめなのだが。それは仮設住宅一つとっても実績が示している。
現状のように「政策なき権力闘争の菅降ろし」では、いずれポスト菅が決まったところで、同じ役者が同じ政策を同じ手順でやるだけだ。せいぜい、霞が関がこれまで以上に出張ってくるのが関の山だろう。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号