「直木賞」受賞作『下町ロケット』はロケット作りに懸命に取り組む町工場のストーリーだ。そんな同作を生んだ、下町の夢と誇りとはどんなものなのか。〈小さな大企業〉のカネとモノづくりは、どのようにしてなされているのか。作家の山藤章一郎氏がリポートする。
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京浜工業地帯・大田区蒲田を発する線路伝いを来て、古ぼけたビルに着いた。細い階段を2階にあがる。額が飾られていた。
「感謝状
はやぶさプロジェクト
サポートチーム殿
あなたがたは小惑星探査機『はやぶさ』プロジェクトを通じて世界初となる小惑星への離着陸かつ地球帰還、さらに小惑星から試料回収を成功させることに大きく尽力されました。よってここに深く感謝の意を表します」
文科省からの賞状だった。ところがこの〈東京通信機材(株)〉は自分たちのつくったパーツがはやぶさに使われているとは思ってもいなかった。ロケットの燃料タンクの切り離し部品である。
7年かけて帰還したはやぶさが喝采を浴び、表彰しますといわれて初めて搭載を知った。
だが、30年ほど前からロケット事業に参加している同社営業部・根本仁さんの口は重い。
「国のからむロケットやはやぶさは規制が多く、お話しできないことがほとんどで、元請けの名はいえません。孫請けの弊社は、ひたすら技を駆使し発注元の設計図通りにつくっています」
はやぶさ本体、ロケット、探査衛星から成る、はやぶさプロジェクトのメーカーはNECとJAXAと三菱重工である。その下を元、下、孫、約200の企業が請ける。
1号の成功で、はやぶさ2のパーツの見積もりも来ている。
「こんな小指くらいのパーツですが、テストが大変なんです。100個つくって90個はテストに使う、実際に搭載するのは残った10個、が現状です。これ、見た目、ホームセンターで売ってる水道部品みたいでしょ。ところがこれは、削るのが難しいと書いて〈難削材〉と呼ばれる素材で熟練者の加工じゃないと、刃が負けてしまいます。ステンレス630に近いのですが、正式な名称は勘弁してください」
そして氏は、これからはやぶさ2に「乗るんだ」という気持ちの作業が始まるので「嬉しいです」と控えめにつけ加えた。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号