長引く不況と円高、東日本大震災、そして節電による事業の制約……日本企業に激しい逆風が吹きすさぶ中、社員への退職金の支払いは会社の財布をさらに逼迫させる。会社側は時に社員には内緒で、時に社員の無知につけこみ、退職金の「減額」を仕掛けている。
しかし、企業が就業規則の中に退職金規程を設けた時点で、それは会社と社員の労働契約の一つとなり、会社側には支払いの義務が生じる。定められた退職金額を払わない「減額」は、社員の権利を損なう「不利益変更」となる。
過去の裁判所の判例を見ると、不利益変更は社員や労働組合の応諾がなければ行なうことはできない。つまり、会社が社員の同意なく不利益変更をすることは労働契約違反であり、法律上、無効となるのだ。
気をつけたいのは、社員側に退職金についての知識がなく、会社のいうままに変更に応じてしまうケースが多いことだ。「会社の業績が傾いたから」「賃金体系全体の見直しの一部だから」などと会社が説明したとしても、それは合理的な理由とは判断されないから、社員はこのような不利益変更を受け入れる必要はない。
いったん認めてしまうと、その変更を覆すのは困難だ。だから、退職金を防衛するために、社員一人一人が退職金規程を熟知しておく必要がある。“年金博士”として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏は最近目立つ不利益変更について解説する。
「退職金の委託運用先の一つである『適格退職年金』が2012年3月末で廃止されます。なので、この制度を利用していた会社は他の制度に移行することになる。そこで、会社側は制度移行のドサクサに紛れて、結果的に社員の受給額を減らす制度にしてしまうことがある。
不利益変更かどうか見抜くために、まずは旧制度の時の受給額を計算しましょう。新制度になってその額よりも減っていたら、それは不利益変更です。社員には旧制度の受給水準を確保するように会社に要求する権利があります」
※週刊ポスト2011年8月19・26日号