「直木賞」受賞作『下町ロケット』はロケット作りに懸命に取り組む町工場のストーリーだ。そんな同作を生んだ、下町の夢と誇りとはどんなものなのか。〈小さな大企業〉のカネとモノづくりは、どのようにしてなされているのか。作家の山藤章一郎氏がリポートする。
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困難にあえいでいるいまの日本で、世界に影響力を誇る小さな大企業は、数多くある。墨田区の従業員5名〈岡野工業〉は、先端が0・2ミリ、極細の注射針をつくる。累計7億本、世界シェア100%。
北海道の原野にかまえる従業員10人〈植松電機〉は、建設重機に取りつける電磁石装置でトップシェア。しかしそれには飽き足らず、東急ハンズで売っているような部品で小型ハイブリッドロケットを開発して打ち上げに成功した。
従業員45人の東京・三鷹市〈三鷹光器〉はスペースシャトルに特殊カメラを搭載されたのを契機に、脳神経外科手術用の顕微鏡の世界シェアをめざしている。
大田区と同様、日本の町工場の聖地と呼ばれる東大阪市を訪ねた。21の異業種が集まる〈ロダン21〉の初代代表幹事・品川隆幸さんは意気盛んだった。
「大震災で操業困難となった東日本の生産を、われわれのグループが、新幹線の部品から自動車のパッキンまでずいぶんカバーしました。モノ創り、ヒト創り、ユメ創り、私たちは『ダメやな』とはいわない、『だめなら他のことをせんかい』と励ましあい挑戦します」
実際に東大阪の中小企業が集まった東大阪宇宙開発協同組合は、職人集団の技術を結集して2年前、人工衛星〈まいど1号〉の打ち上げに成功した。
歯ブラシからロケットの部品までをつくる力の総結集である。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号