普段何気なく見ているドリンク剤のCMにも、多くの規制があることをご存じか。国や自治体の法律、条例などの在り方に鋭くメスを入れる話題の新刊『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館101新書)を上梓した元経産省キャリア官僚の原英史氏(現・政策工房社長)が、身近な生活の中に潜む細かな「規制」について解説する。
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いつも何気なく見ているテレビ。実は規制と無縁ではない。むしろ規制だらけの世界だと言っていい。
例えばお馴染みのテレビCMを考えてみよう。足場のない断崖絶壁を2人の男性が登っている。一人が手を滑らせて落ちそうになると、もう一人が手を差し出し、「ファイト~」「一発!」の掛け声でピンチを脱出する。崖を登り切った2人がドリンクをグイッと飲み干す。大正製薬の栄養ドリンク「リポビタンD」のCMだ。
さて、このCM、落ち着いて考えるとちょっと不思議な気がしないだろうか。サラリーマンの場合、残業や大仕事の前、気合を入れるためにドリンクを飲む人も多いはず。CMでも、崖を登る前に飲んでおけばいいのではないか……。ところが、なぜかいつも、ドリンクを飲むのはピンチを脱出した「後」。これは規制があるからだ。
リポビタンDは指定医薬部外品だが、薬事法ではその広告について「誇大広告をしてはいけません」とある(66条1項)。さらに、「医薬品等適正広告基準」(昭和55年厚生省薬務局長通知)という「通達」があって、「承認を受けている効能効果以外を謳ってはならない」ともある。
リポビタンDの場合、効能は「疲労回復、滋養強壮」で、「疲労の予防」は含まれない。CMで「疲れる前にあらかじめドリンクを飲む→手を滑らせずに元気に崖を登り切る」という流れにすると、「効能効果の範囲」を超えた“誇大広告”になってしまう(日本OTC医薬品協会の説明による)。
だから、ドリンクは「ピンチ脱出後」に飲んでいるのだ。