女優・山口智子は現在、世界各地を旅しながら、そこで出会った文化や音楽家達の演奏を、独自の手法で紹介する映像シリーズを創っている。世界の文化に触れながら、彼女は何を感じているのか。インタビューした。
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風が吹き上げる山頂で、山口智子が気持ちよさそうに両手を広げている。そこにはかつてドラマで活躍した女優の頃とは違う、世界に目を向けて美しく生きる女性、山口智子がいた。
現在、彼女は世界中を旅しながら、『LISTEN 1001』という映像シリーズを創っている。「心地よく聴いて、感じて、浸れるテレビ番組が欲しい」。彼女自身の心の声のもとに、リサーチやディレクションも自ら行なう音楽・紀行ドキュメント番組だ。観光名所を紹介する旅番組とは異なり、テロップや、ナレーションなど余計な説明はほとんどない。我々は先入観を持たず、異国の音楽家が奏でる音を体感することができる。古今東西の文化の融合に着目し、これまでハンガリーやトルコ、セルビアなど多数の国を訪れた。
「世界には、まだまだ知らない美しさがたくさんあります。例えばイスタンブールやブダペストなど、文化のクロスポイントには、“かっこいい”輝きがある。西洋と東洋の流れが出会い、溶け合い、積層した都を訪れると、遠く離れた異国のはずなのに、故郷に帰ったような懐かしさを感じたり、日本の美を再発見します。私たちが想像する以上に、世界は古代より風や潮の流れで繋がり、互いに行き交い結びついていた。その痕跡に出会える瞬間が最高です」
しかし、そんな中で自分に合った生き方がわからずに迷うこともあったという。著作の中に“これだという生き方や仕事を持った人々に憧れる”という言葉が何度も出てくる。今回のインタビューの中でも“自分が本当にお役に立てることってなんだろうと思いながらずっと生きてきた”と本音を語ってくれた。そして、彼女は旅の中で答えを見つけた。
「スターナビゲーションと呼ばれる古代航海術があります。航海士は羅針盤や器械を一切使わずに、星の位置や波や風などの自然を読み取って海を渡るのです。自然界は常に進むべき道への情報を投げかけてくれる。それを私たちがしっかりと感じて、受け止めていれば、自ずと針路は導き出されてきます。
そのために大事なことは、シンプルな問いに正直になること。“好き”か“嫌い”か、“YES”か“NO”か。私たち全てに備わる『感じる力』を呼び覚ますことで、自然に身を委ねつつ進む悦びを知りました。選びとることの幸せと、その責任と誇りとともに進んでゆく快感です。山を流れる雲のように、刻々と変化し変容しながら世界を巡ってゆきたいです」
山口が見遣る水平線には、まだ見ぬ美しき島々が輝いているのだろう。旅は東から西へ流れ、終着点はない。彼女は、知れば知るほどもっと知りたい、もっと出会いたくなると繰り返し語る。常に前を向き、自分の心に正直に生きていく彼女の姿を見ていると、我々も慌てふためく日々の中で改めて自分の心と向き合わなければならないと感じる。
彼女の次なるテーマは、地中海の島々と日本を繋ぐ「音」だという。彼女が我々になにを見せてくれるのか、どんな感動を伝えてくれるのか。楽しみでたまらない。
【プロフィール】
山口智子(やまぐち・ともこ)
1964年10月20日生まれ。女優。1988年NHK連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』でデビュー。現在、自らディレクションする映像シリーズ『LISTEN1001』(BS朝日)が放送中。世界各地を旅して出会う文化や音楽家達の演奏を独自の手法で紹介している。新シリーズの放送は、Episode4:8月24日23時30分~23時55分を始めとして続々と放映予定。番組の詳細はwww.bs-asahi.co.jp/listen/まで。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号