国民の利益を損ない、企業のビジネスチャンスを妨げる「規制」がどう生まれているかを指摘した話題の新刊『「規制」を変えれば電気も足りる』(小学館101新書)。著者で元経産省キャリア官僚の原英史氏(現・政策工房社長)は、国会議員が決める「法律」ではなく、役所・役人の意志が反映されやすい「省令」や「通達」で、より重要な「規制」が決められていると解説する。
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本来、規制とは、国会で決めるべきものだ。しかし現実には、大事なことは省令や通達で「役人が決める」ことが当たり前になっていて、国会議員もそう思い込んでいる。
例えば「医薬品のインターネット販売」の場合、「対面販売」規制という根本的ルールを、法律ではなく、厚生労働省が省令で決めていた。このケースで、条文をよーく見てほしい。厚生労働省は実は、根拠なく勝手に省令を決めたわけではない。ポイントとなる部分だけ引用しよう(“ ”は筆者によるもの)。
●薬事法第36条の5(法律)
薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、“厚生労働省令で定めるところにより”、一般用医薬品につき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に販売させ、又は授与させなければならない。
●薬事法施行規則第159条の14(省令)
薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、“法第36条の5の規定により”、(中略)対面で販売させ、又は授与させなければならない。
法律の条文の中に「厚生労働省令で定めるところにより……」というフレーズがある。このフレーズが鍵だ。これで、「販売の仕方は、省令でルールを決めなさい」と国会議員が厚生労働省に任せたことになる。しかも、どんな方向性のルールかを一言も書いていないから、“白紙委任”みたいなものだ。
そして、一方の厚生労働省の側はどうしたかというと、これも省令の規定をよく見てほしい。「法第36条の5の規定により」というフレーズがある。つまり「国会から頼まれたので、ルールを決めました」と丁寧に断り書きした上で、「対面販売」規制を定めていたのだ。
国会議員たちは、なぜこんな“白紙委任”みたいなフレーズを条文に入れ、ルール作りを役人任せにしてしまったのか? 理由は簡単で、法律の条文は、国会議員でなく、役人が書いているからだ。
日本国憲法には、国会は「唯一の立法機関」と書いてある。だが、現実は違う。役人が政策の内容を検討し、法案の条文として書きあげ、最後に閣僚たちがサイン(閣議決定)して法案(政府提出法案)になり、国会で審議され、多くの場合そのまま可決成立に至る。
条文を書く役人からすれば、そのまま成立することが多いとはいえ、国会でいろいろと審議されるのは厄介だ。だから、条文を書く時、大事なルールが絡むポイントで「……省令で定めるところにより」という決めフレーズを埋め込み、自分たちで勝手に決められるようにしてしまう。こうして、規制の肝心な部分は、省令や通達で決められてきたのだ。