菅直人首相の脱原発宣言は拙速だったのでは? という議論も巷で沸き起こっている。日本は今後、原子力政策に関してどのような手順を踏むべきなのか、大前研一氏が解説している。
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菅首相は、与野党間はおろか、与党内ですら十分な議論を尽くさぬまま「脱原発依存」を掲げたが、ドイツではその結論を出すまでに10年以上かけている。しかも再生可能エネルギーは18%(日本は1%)に達しており、稼働中の原子炉も17基しかない。
本来なら、日本の原発は徹底的な安全対策を講じた上で順番に再稼働し、1基ずつストレステストを実施して、その結果として閉鎖すべき原子炉が出た段階で粛々と廃止していくという手順を踏むべきだ。
残った原子炉は寿命の限り運転するが、延命や新規の建設は中止する。このステップを踏めば、30年後に日本の原発は自然消滅するが、それまでに再生可能エネルギーへの転換を推進するのが最も現実的な選択肢だろう。
そういう中間プロセスの議論をいっさい省略し、順序を誤って結論だけを先に出してエネルギー政策の混迷を深めた浅慮な菅首相の罪は重い。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号