太平洋戦争(大東亜戦争)とは何だったのか。最前線で戦った兵士たちは、あの戦争をどう受け止め、自らの運命をどう捉えていたのか。ノンフィクション作家・門田隆将氏が、太平洋戦争の生き残りを全国に訪ね歩き、未曾有の悲劇を生々しく再現したのが、『太平洋戦争 最後の証言(第一部 零戦・特攻編)』である。「九十歳」の兵士たちは、自分たちがなぜ戦場に向かい、何を守ろうとしたのかを後世に伝えようとしていた。時を超えても変わらない使命感と親兄弟を守るという熱い思い──門田氏がレポートする。
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東京商大(現一橋大)の学徒出陣組、松林重雄(九十)は、海軍が開発した航空特攻兵器「桜花」での出撃を待ちながら、終戦を迎えた一人だ。
「次の者は明日進出」――沖縄戦開始後は夕食時、当直がそう言いに来て、仲間が次々と出撃していった。
「私は夢で“松林少尉、明日進出!”という声に飛び起きて、びっしょりになった冷や汗を拭ったことが何度もあります。それに、敵の艦橋が近づき、“距離五十メートル!”という大写しになった映像に、思わずハッとのけぞって目を覚ましたこともありますよ」
死を覚悟して自ら桜花に志願した松林にしても人間である以上、その苦悩から逃れることはできなかった。生き残った松林は、死んでいった戦友たちを今、どう思っているのだろうか。
「やっぱり死んだ戦友に申し訳ない。今の日本を見ていると特にそう思います。こんなはずじゃなかった、と。私たちの世代は、若い時は“若者は死んでください、国のため”、今は後期高齢者とか言われて“年寄りは死んでください、国のため”です。なんか自分たちの世代は生きているのが悪いみたいでね……」
※週刊ポスト2011年8月19・26日号