トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』(2003年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、世界的に注目を浴びて以来、ハリウッドからも熱いラブ・コールを受けている渡辺謙(51)。巨匠クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(2006年)やレオナルド・ディカプリオ主演の『インセプション』(2010年)など次々とヒット作に出演してきた。そんな彼が選んだ最新作が『シャンハイ』。実力派ジョン・キューザック(45)を筆頭に中国のコン・リー(45)、香港のチョウ・ユンファ(56)、日本からは渡辺、菊地凛子(30)とアジアのスターが顔をそろえた話題作だ。
その渡辺は俳優の中でもチャリティー活動を積極的に行っている。東日本大震災直後にもすぐにインターネット上でサイトを立ち上げ、また、車に救援物資を積んで被災地を回る活動も続けている。多忙な仕事の合間をぬって、すでに20か所以上の避難所を訪れているという。これはスターがチャリティー活動に熱心なハリウッドの影響なのだろうか。
「それはあまり関係ないですね。むしろ、仕事を含め自分の人生において、垣根がなくなってきていることと関係しているような気がします。以前は、慈善的な活動をしようかと思いついても、“どう思われるだろう”と、周囲の目を気にして尻込みしていた部分があった。でもいまは、人から何をいわれようと関係ない。誰かのためになるのなら、なんでもやろうと素直に思えるようになりました」
具体的には、一昨年に放映されたNHKのドキュメンタリー番組『渡辺謙 アメリカを行く 星条旗の下に生きたヒバクシャたち』への参加がきっかけだったという。
「この番組のために日系移民の取材をずっと続けていました。日系人の中には、たまたま戦前や戦中になにかの事情で日本に戻り、広島・長崎で被爆した人たちがいる。このシリーズの第2弾として、今年は収容所の歴史を取材したんです。
さまざまな人に触れて自分の中で湧いてきたのは、いまそこに困っている人がいたら行動しなければならない。そんな単純なことなんです。こういう経験が自分の中で大きな影響を及ぼしているのかもしれません」
実際に被災地に行くことは、自分自身にとっても得ることの多い経験だという。
「行く前は必要なものをリサーチしたりするけれど、やっぱり現地に行ってみないとわからないことはたくさんありました。たとえば行政は、救援物資も“人数分そろわないと不公平になるから配れません”ということになる。
けれどぼくらの場合は、公平にはならないかもしれないけれど、それでも少しずつでもモノが行きわたって、住みやすい環境に近づいてくれればいいと思うんです。変な思惑は捨てて、身ひとつで飛び込む。もっといえば、魂ひとつでいかないと寄り添えない。被災地に行くことが楽しいといえば、語弊がありますが、またあの人たちに会えることは、ぼくの中では確実に喜びでもあるんです」
ひとりの男としての渡辺謙と俳優・渡辺謙の距離が縮まった分、より人間としてのスケール感が出た。今後の俳優としての活動にも好影響が出そうだ。
【作品情報】
『シャンハイ』
1941年、太平洋戦争開戦前夜の上海。 親友・コナーの謎の死を究明するため、上海にやってきた米国諜報員ポール(ジョン・キューザック)は、裏社会のボスとその妻アンナ、日本軍の大佐・タナカ、コナーの愛人だったスミコらと巡り合うが…。監督/ミカエル・ハフストローム 出演/ジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファ、渡辺謙ほか。8月20日(土)より丸の内ピカデリー他 全国公開。
※女性セブン2011年8月25日・9月1日号