安い賃金を求めて外資系企業が集まった中国で、賃金上昇を嫌い従業員に換えて100万台のロボットを導入する企業が現れた。このねじれ現象は、何を意味するのか。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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中国が痛みのともなう“構造転換”の時を迎えたことは、多くの専門家の指摘するところだ。
今年に入ってから私は、中国がこれから「元高」と「中国人労働者の賃金上昇」によって、国際社会における中国と中国人の存在感は急速の高まる(対ドル資産が膨らむため)反面、明らかに中国経済は下降線をたどり始めると書き続けてきた。
ねじれのサインは、すでにさまざまなところに現れているが、8月4日の新華社の記事はその変化を裏付ける興味深い内容だった。
というのもニュースは昨年、労働者の相次ぐ自殺問題で有名になった富士康(フォックスコン)に関するもので、タイトルは〈賃金上昇とロボット導入 富士康、“構造転換”へ舵を切る〉というものだ。記事の中身はタイトルのままで、フォックスコンが賃金上昇を受けて、従業員に換えて100万台のロボットを導入するという話なのだ。
フォックスコンは昨年の自殺騒動の後、賃金を一気に三倍近くまで上げ、外資系工場全体に大きな影響を与えた。ホンダはこのあおりを受けて昨年は約33%の上昇(中国全体では約24%の上昇)となったのは周知の通りだ。
この賃金上昇の影響でフォックスコンは沿海部から内陸部に工場を移転したばかり。それなのにさらにロボットで機械化するという。
日本から見れば「いつか来た道」(貿易黒字を積み上げ、円高になると機械化で凌いできた)だが、それにしても中国を襲う変化のサイクルは速過ぎる。わざわざ安価な労働力を求めて台湾から中国に来たフォックスコンが、世界最大の人口を抱える国にあって、人をロボットに置き換えようというのだから皮肉だ。
だが、これこそ中国が痛みのともなう変化の入口に立った明確なサインだ。本格的に経済発展にブレーキがかかるまでにはまだ時間がかかるが、それでも明らかに中国経済の停滞期は始まったのだ。