東日本大震災報道では、NHKの報道が民放を圧倒したとする意見が目立った。何が違ったのか? 元フジテレビアナウンサーの露木茂氏がその理由を分析する。
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震災報道を外側から見て感じた「民放報道の弱点」は“自分の苦手分野を忌避する”姿勢でした。たとえば、「ミリシーベルトとは何を示す単位で、基準値を超えた場合にどうなるのか」という視聴者が知りたいことに対して、安心感や信頼感のある説明のできるキャスターや記者が皆無でした。
新聞やNHKには科学的な知識を持つ理系出身者や、文系出身者であっても科学分野を地道に勉強してきた記者がいて、彼らは専門家の意見を拝聴するだけでなく、視聴者の不安や疑問を掬い取って専門家に問うたり、自ら解説したりしていた。
民放の報道番組の場合、スタッフの大半が文系出身のためか、理系分野に苦手意識があります。また、政治や事件などの華やかな分野の話題ばかりが重視されるため、地味な科学分野の取材を避けてきたことも否めません。それではいくら津波被害の凄まじさや原発事故で避難する住民のレポートをしたところで、視聴者が求める報道にはなりません。
私の現役時代も、原子力船「むつ」や日航機事故などの事件では、自分なりに関係する科学的知識を勉強してきたつもりですが、そうした姿勢が足りないことを真摯に反省すべきだと思います。
テレビ離れが指摘されていますが、野村総研の調査では「ネットよりテレビから情報を得ている国民のほうが多い」という。記者やキャスターが「報道とは視聴者に事象をわかりやすく伝えること」という原点に立ち返らなければ、そうした期待が失望に変わっていってしまいます。
※週刊ポスト2011年8月19・26日号