ネット界注目の私小説家・西村賢太氏への連続インタビュー。第3回目は一年間の同棲生活をモデルにした一連の作品(通称・「秋恵」もの)から、独特の女性観に迫る。(聞き手=神田憲行)
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--西村さんというと「秋恵」ものなんですが、芥川賞受賞後、「秋恵」のモデルになった女性からコンタクトありましたか。
西村:本人からはなかったんですが、「秋恵」のお母さんから「おめでとう」と電話をいただきました。その前からちょくちょく借金の督促の電話が来ていたんですが(注・西村氏は同棲していた「秋恵」さんの実家から多額の借金がある)、受賞でまた催促されるのかなと思ったら、「おめでとう」だけでお金のことを一切言われ無かったのは感謝してます。
--それは嬉しいですねえ。
西村:まあ、それ言われたのが1月でいま7月なんですが、まだ全く、お金を返していないんですけど(笑)。
--あんまりお金使わない生活なら返せるんじゃないですか?
西村:いや、僕の場合は藤澤清造の資料を買うという人生の目的がありますから。この間も清造の生原稿がまとまって(古書市場に)出たんですが、そういうのを糸目を付けずに買いますから。
--先日のテレビでは読者と地方局の女子アナに振られたという話をされていました。
西村:サイン会に若くて感じの良い女性が来たんです。僕のサイン会は中高年の男性が多いから、若い女性が来ると目立ちます。しかも彼女はサインをしたときにメールアドレスを渡してきたので、ならばとメールしたんですが、なにも返事が返ってこなかったですね(笑)。
女子アナはいずれ小説の一部にするんで詳しくいえないんですが……あるイベントを見に来ませんかと旅費を8万円送ったら本当に来て手応えを感じたんですけど、そのあと何の音沙汰もなく……まあねえ……(担当の編集者「来たからねえ」)そうそう、来たからねえ……あれも何だったのかな(笑)。
--「秋恵」さん以降、女性の交際はないのですか。
西村:「秋恵」が他に男を作って出て行ったのが僕が35歳のときで、それから9年間いませんねえ。まあ、女性との関係というのは、僕みたいなタイプの小説の生命線のひとつなんですね。ネタ作りじゃないですけれど、繰り返しいくつになっても追い求めていかなきゃいけないところがあります。だから変に成就しないほうが、ネタとしてはありがたいのかもしれない。
でも歳のせいか、もう女性と一緒に住みたいという欲もなくなってきたね。孤独死して遺体が液状化で発見されたら悲惨すぎるなという恐怖はあるけど(笑)。あと痛風が出たときはタバコ一つも買いに行けなくなるから、そういうときは誰かいたらいいなあと思う。
--一人で住んでいて寂しくなるときはないですか。
西村:ありますよ。芥川貰っても、結局家に帰ったら誰もいないから「ああ、取って良かった」と思うぐらいで終わってしまう、虚しさを感じました。でも次の日になったらそんな虚しさなんて忘れちゃうから。一瞬だけ。
けどその一瞬のためだけに家族を養わないといけないなんて、大変じゃないですか(笑)。もし病気にでもなられたら、すごく自分にとっての足かせになるわけだし(笑)。
--あのう、聞きようになってはずいぶんヒドイこと仰っているような(笑)。(担当編集者「そんなことを言うから女性読者が増えないんですよ」)
西村:いやいや、あっそう? うん、元気ならいいですよ、お互いが。でも相手が寝たきりになったら放り出すわけには行かないし、それ考えたら、やはり一人の方が気楽で良いですよね。中学出てから一人で生きてきて、馴れちゃったというころもありますよ。ヒドイ? いやーみんなそう思ってますって(笑)。