政治家の「スーパークールビス」による服装は、ただのファッションではない。それは、自らの「節電」と「エネルギー政策」のセンスと実行力を体現する指標である。そんな視点から、作家で五感生活研究所の山下柚実氏が、民主党新代表候補の各氏を採点する。
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東日本大震災・原発事故後、初の民主党代表選。危機のさなか、日本のリーダーを選ぶ選挙なのに、「増税」「大連立」にばかり話題が集まっています。
酷暑の中で、国が家庭やオフィスに節電を呼びかけているのですから、当然、エネルギー政策が争点の一つにならなければおかしい。
しかし、どの候補者も「原発」「再生エネルギー」についての考え方を積極的に語ろうとしません。それならば、こっちからチェックしましょう。
エネルギー政策とは、国家にとって最も重要な政治課題の一つなのですから。
「スーパークールビズ」を、たかがファッションと片づけてはなりません。「電気に頼らず、涼をとってください」という呼びかけは、政治家にとってエネルギー政策に基づく提言。だから、彼らの服装は「節電」という政策を、自身が実践しているか否かを測る指標なのです。つまり、政治家にとっての実行力を「見える化」する、ものさしなのです。
その視点から、出馬をとり沙汰されている政治家を見てみましょう。まずは環境省の提案する「スーパークールビズ」をもとに、私なりのチェック項目を確認。
1.国会本会議場以外では、ノー上着であること
2 単にネクタイをとるだけでは、スーパークールビズではない
3.スーパーという語に見合う、積極的な涼感スタイルを追求しているか
すべての基本は、「自分が涼しいだけでなく、相手にも涼感を与える」こと。ですから、「サマースーツ+ネクタイ」姿なんて、すでに次期リーダーとして失格です。
最初に出馬を表明した馬淵澄夫元国土交通大臣。
紺スーツ+ネクタイ姿が目につき、スーパークールビズ実践者というイメージからは残念ながらほど遠い。ボディビルが趣味だけあって筋肉モリモリ、他の人より首が太いのが特徴。その太い首をぴたりと締め付けるネクタイが、暑苦しさを感じさせます。
「脱原発依存の実現に積極的に取り組む」と言っているわりに、服装からそのことが伝わってきません。
野田佳彦財務大臣も、クールとはほど遠いスタイル。背広姿が定番の印象。たとえネクタイをとった時でも、ボタンダウンの襟元がアゴに押しつぶされて、いただけません。そもそもボタンダウンは首が長い欧米人に似合うデザイン。首の短い人が着れば着崩れるし、本人も襟がアゴに触って不快だろうと、見ているこっちが余計なことを想像して暑苦しさが増幅。
鹿野道彦農水大臣は、閣内で唯一の実務派大臣と評価が高い人。でも一般庶民からすれば、「誰その人?」と、最も目立たない存在。「次期首相」に推す声があるのは、寡黙な性格が貴重な存在と映るから、と新聞評にありました。「スーパークールビズ」も同様、ただ実務的に従っている感じ。せっかく白っぽいジャケットを纏っても改革的に見えず積極性というものを感じない、残念な人。
小沢鋭仁氏は元環境大臣だっただけあって、「クールビズ」の意味を多少、他の人より掴んでいる印象。背広より、白っぽいジャケットを纏っているというイメージ。半袖シャツ姿も目立ちます。
ただ、環境省はアロハシャツでもスニーカーでもOKとしているのに、環境大臣まで経験した人として踏み込みが足りない。この人がやらずに誰が「スーパークールビズ」を纏うのか。
樽床伸二元国対委員長は、候補者の中で最も「背広+ネクタイ」の印象が定着している印象。つまり、スタンダードから踏み出しそうにない、保守的なイメージを纏っています。大阪出身でパフォーマンス上手の関西人ならば、見習うべきは、常にシャツ姿でクールビズを実践している橋下大阪知事ではないでしょうか。
海江田万里経産大臣は、ネクタイをしてもしなくても、常にダークな色の背広を着用しているイメージ。顔を赤くして泣き崩れた姿はますます暑苦しい。その様子から、とても「スーパークールビズ」を実践しようとしている政治家には感じられません。原子力発電を何とか維持したい経産省の代弁者として、上着を決して手離さないという印象が刻印されています。
国会本会議場では上着着用がルール。逆から言えば、「スーパークールビズ」の夏、本会議場から一歩出たら、さっそく上着を脱ぐべき。
ところが代表戦が近づくにつれ、ますます候補者たちの姿は紺スーツ+ネクタイへ逆戻りの気配。「気に入られたい」と願ったとたん、暑苦しい保守的なスタイルに里帰りしてしまうのでしょうか。
もしかしたら、「増税や大連立の問題に比べたら、節電やクールビスなんてテーマはしょせんその程度」と、「エネルギー政策」を一段下に見ているからかも。しかし本来、政策に上・下の差なんてないはずです。
じゃあ、日本の男性は、夏にどんな格好をすればよいのか? 難しいことではありません。小津安二郎監督の映画を見ればすぐわかります。かつて冷房に依存していなかった時代、サラリーマンの夏のオシャレは決まっていました。麻の開襟シャツ、パナマ帽、扇子にメッシュの靴と。
湿度の高い風土で、しかも欧米人のような長い首を持たない日本人にとって、自分も他人も涼しい、オシャレなスタイルでした。
さて、民主党代表選。立候補者の中の誰が、最初に背広の上着を脱ぎ捨て本当のスーパークールビズを見せてくれるのか。自分のことだけでなく国民一人一人に対して配慮できる次期リーダーの資格を、身体で表現できるのか。あまり期待できないけれど、注目しましょう。