多くの日本の大学の入学は「春」と相場が決まっているが、このたび東大が「10月入学コース」の新設を発表した。この新制度だが、大前研一氏は大きなメリットがあると指摘する。以下、大前氏による解説だ。
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東京大学が来年度から、主に外国人留学生を対象とした「10月入学コース」を教養学部に新設する。入試は書類と英語による面接などだけで選ぶ東大初のアドミッション・オフィス(AO)形式で、授業は英語のみで行ない、日本語が話せなくても学位が取得できるようにする。
世界で一般的な秋入学に合わせて外国人留学生を増やすことが狙いで、東大は日本人学生の入学時期についても、海外留学を促して国際化を加速するため、秋に移行することを検討しているという。
その背景には、世界的な大学間競争の激化と東大の地位低下への危機感がある。英QS社の世界大学ランキング(2010年版)で東大は24位に甘んじ、アジアのトップを香港大学(23位)に譲った。そこで、台頭著しい中国、韓国、シンガポール、台湾などの大学に対抗するため、留学生を増やすことで国際競争力を高め、グローバル人材を育てようというのである。
逆にいえば、東大は現在の「春入学・春卒業」による世界との半年のズレが、国際化の障害になっていると考えているわけだが、入学時期はクリティカルな問題ではない。
海外では半年くらいのモラトリアム期間は当たり前である。たとえばドイツでは、高校卒業後や大学の途中でワンダーフォーゲルなどの長旅に出る学生が多い。
むしろ半年間のズレは、学生にとってデメリットよりもメリットのほうが大きいと思う。私自身、東京工業大学の修士課程を3月に修了し、9月にMIT(マサチューセッツ工科大学)の博士課程に留学したが、その半年は留学準備がゆっくりできる貴重な時間だった。
海外からの帰国時も、半年のズレはさほど障害になっていない。外国の高校を6月に卒業して日本の大学を受験する場合、帰国してから入試シーズンが始まるまでの半年間は受験勉強に集中できるからだ。慶應義塾大学(湘南藤沢キャンパス)は、春・秋どちらでも入学可能だが、多くの帰国子女は翌年の春入学を選択している。
要は、頭が固い東大がようやく重い腰を上げただけの話であり、単に秋入学に移行しただけではグローバル人材が育つわけがない。重要なのは、学生の「世界で活躍する」というアンビションをどう育てるのか、ということである。
※週刊ポスト2011年9月2日号