「音楽で世界が変えられる」という幻想を抱かせるほど、ロックがリスナーに影響を与えた時代があった。そうした時代を牽引したアーティストたちの取材秘話を、ハードロックやヘヴィメタルを日本に紹介した第一人者として知られる音楽評論家の伊藤政則氏が明かす。
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団塊の世代が大学受験を迎えた1960年代後半。深夜ラジオから流れるロックを聴きながら勉強をする若者がその魅力に引き込まれていった。ザ・ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンが時代を席巻し、「音楽で世界が変えられる」という幻想を抱かせるほど、ロックはリスナーに影響を与える存在でした。かくいう僕も、その一人でした。
だから1990年のストーンズの初来日時、キース・リチャーズからインタビュアーに指名された時は感慨深かったですね。東京ドームの楽屋での取材。緊張で震えていましたが、今でもハッキリと憶えているのが僕の最後の問いに対するキースの答え。
あなたにとってロックとは何? と聞いたところ「やっと分かってきたところだ」という。デビューから30年近く経っていてもおごらない。レコードにサインを頼むと自分の指にマジックを塗り“母印”まで捺してくれました。
キースとは違った意味で印象深いのが元ディープ・パープルのリッチー・ブラックモア。彼ほどインタビュアー泣かせはいない。まず質問に答えてくれないし、答えてもウソの英語を交えてきて、それを聞き過ごすと話を聞いていないと判断されて取材がストップしてしまう。
いたずらも好きで、あるプロモーターなんて、ホテルのベッドにおろしニンニクを敷き詰められたそうです。まぁ、普通の人とは違う感性を持っているからアーティストなんですけどね。
※週刊ポスト2011年9月2日号