ライフ

がん告知で大切なのは「患者の希望を断たず支えること」と医師

 患者と直に対面してがんの告知を行なうことは医師にとっても苦行である。心ある医師たちは、冷静な表情の裏で、患者の心中を思い胸を痛める。

 彼らが心がけているのは、患者の残りの人生を意義深いものにすべく、最善の治療を提供することだ。

「病気を診ずして病人を診よ」――これは東京慈恵会医科大学が掲げる医療理念だ。告知には人間とどう向き合うかが問われている。緩和ケア医療の最前線を走る同大学の相羽惠介教授(内科学講座 腫瘍・血液内科)が、告知の現実を語る。

 * * *
 医療は「机の上のお勉強」でなく「実学」である――そのことを最も感じるのが「がん告知」という局面ではないでしょうか。

 告知に「こういうケースにはこうするとよい」というガイドラインはありません。患者さんはそれぞれ別の社会生活を営んでいるひとりの人間ですから、抱える悩みも様々です。だから個別に対応を考えていかなければならない。

 やはり医師としてのキャリア、ベッドサイドでの実績がものをいいます。若い医師はどうしても、ストレートに物事を伝えすぎてしまう傾向があります。

 当病院では告知の全権を主治医が、外科分野であればチーム医療の年長者が担うことになっている。患者をいたわりながらも事実を正確に告げる告知には、やはり失敗から学んだ経験が役に立つのです。

 患者と医師が共同作業でがんに立ち向かうためには、真実の告知は原則必要です。やはり本当のことをいわないと、治療に協力してもらえない。医療は患者と医師の共同作業です。ただし「本当のことをすべて知りたいわけではない」という患者さんもおられます。

 当科では患者さんとの意思疎通を確かなものにするため、初診時に問診票へ記入して頂きます。「すべて隠さず告知してほしい」「限定的で構わない」「まず家族にだけ告げてほしい」など、患者さんの希望をなるべく具体的に書いて頂き、それを参考に柔軟に対応します。しかし、それが本心とは限らないので、探りながらの対応が必要です。

 適切な告知が必要なのはもちろんですが、その一方で告知が当たり前となったことによる問題点も感じます。それは末期がんの患者さんに「大丈夫です」といえる医師が少なくなったこと。

 私は若い医師によくいうんです。たとえ余命が短い患者さんがいても、「大丈夫」と伝えることも必要だと。生きる希望を断ち切ってしまうわけにはいかない。いかなる場合においても、常に希望を持って頂く。

 たとえ見通しが厳しかったとしても、「大丈夫」という言葉で患者さんの不安を引き受けてあげるタフさがなければ良医ではない。患者さんの希望を断ってしまうような余命告知は決して行なうべきではない。

 もちろんご家族には予想される余命も含め現実的な告知をしますが、患者さんの希望を支えるためには、いつも真実をお伝えすることが最良とは限らないと思います。スキンシップも大切で、患者さんの肩や手に触れて、言葉では伝わらないシグナルやメッセージをお伝えすることもあります。

 患者さんにとって告知はなかなか受け入れ難く、それは医師にとっても厳しい現実です。だからこそ、医師は患者さんの最期の瞬間まで、心身の痛みを分かち合う伴走者でありたいと思います。

※週刊ポスト2011年9月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン