65歳からの4年間で、直腸、左肺、右肺、肝臓の一部摘出をしたジャーナリストの鳥越俊太郎氏。がん患者は、いかにして生きるべきか。作家の山藤章一郎氏が鳥越氏に聞いた。
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鳥越さんの述懐――。
「俺も70になって、生きたなと、もうこれ以上生きてもしょうがないなと、手術後、そんな気持ちがじわじわっと出てきましてね。
墓も戒名もいりません。枕元にミニコンポ置いて好きな音楽を聞きながら死にますと」
ところが或る日、〈70周年記念事業〉というものを思いついた。
人生70年、なんとかやってきた。そうだ、自分に〈記念事業〉を興そう。まず、パーマをかけよう。かけてみた。だがこれはみんなに笑われて挫折した。では、筋トレのジムに通って体を鍛えよう。さらに社交ダンスを習い、憧れの杉本彩さんとタンゴを踊ろう。
3か月にいちどCTスキャンもやる。1 年で20ミリシーベルトを被ばくするが、意に介さない。
4回も手術して弱り果てたがん患者のイメージは、氏にない。ダンスは中断しているが、ジムには、週に3回通う。
「へなちょこだった私の筋肉も鍛えられてきましてね。女は裏切るけど、筋肉は鍛えれば鍛えるだけ裏切らないことが分かりましたよ。あとは好奇心ですか。とりあえず、知りたがる、やってみる。この気持ちを失わなければ、がんに勝てる気がします」
※週刊ポスト2011年9月2日号