深夜のラジオから流れてきた洋楽に、若者が日々熱狂した時代があった。聴けば当時の記憶が鮮やかに甦ってくるはずだ。そんな時代の秘話をひもといてみよう。ウドー音楽事務所に入社以来、プロモーターとしてエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、KISSなど数々の大物海外アーティストの来日に同行した高橋辰雄氏が語る。
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もともと洋楽が好きで、学生時代には友達のツテでレッド・ツェッペリンの武道館コンサートでアルバイトをしたこともありました。
プロモーターになってからはジェフ・ベックやディープ・パープルなどの来日公演を担当しましたが、とりわけ思い出深い人といえば、私が新人の頃からお世話になっているエリック・クラプトンですね。
彼は非常にナイーブな性格で酒に溺れた時期もあり、酔ってステージに上がったこともありました。このままじゃいけないと、ジョージ・ハリスンと共に来日した際には、2人で教会の「禁酒の集い」に通って必死に更生しようと努力していた。
その甲斐あって、立ち直ってからは年を重ねるごとに精力的になっていく。今から10年ほど前の福岡公演。ライブ直後、疲れているはずなのに、「新しい音楽を聴いて勉強したい」と若者であふれ返る博多のクラブに向かったのには、驚きましたね。エリックの音楽に対する意欲や好奇心は60歳を過ぎてなお増しているように思います。彼にとって年齢は物事をストップさせる要因にはなりません。
プロモーターは常にアーティストの側にいるから彼らから学ぶことも多いですが、こんな笑い話に遭遇することもあります。
1977年にKISSが初来日した際、空港から出るのに3時間もかかった。というのも、化粧姿の彼らを見たイミグレの職員が、「パスポートと顔が違う!」と入国を一旦拒否したんです(笑い)。こんなアーティストの“素顔”を知れるのもプロモーターならではですね。
※週刊ポスト2011年9月2日号