中国高速鉄道の衝突事故は記憶に新しいが、その原因は「手抜き工事」による「大躍進」とされる。だが、高速鉄道以上に「手抜き」と「大躍進」による被害が懸念されているのがダム問題だ。その実態を、ジャーナリストの富坂聰氏が報告する。
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今年7月の中国高速鉄道の衝突事件によって、急速に拡大する中国のインフラ事業の欠陥が明らかになった。実は、日本に伝わる事件という意味では、高速鉄道事故が重要な役割を果たしたのだが、中国のニュースに頻繁に触れている者にとってあの事故は、無数にある事故の一つに過ぎず特別な感情は動かない。
40人にも上る死者を出した大惨事でさえ中国では珍しくもないものだからだ。
興味深いのは、そうした頻発する事故のほとんどが「有力者の号令の下で行われた突貫工事」、「手抜き工事につながる汚職構造」、「安全(人命)軽視」といった共通する問題に行き着くということだ。
事実、高速鉄道事故の前日に起きたバス事故(41人が死亡)やその1週間ほど前に北京郊外で起きた橋の崩落事故(走行中のバスやトラックが転落)の背後にも同じ問題が隠れていて、中国のインフラ建設事業には共通する問題であることが分かるのだ。
高速道路建設もその典型だか、この8月『中国経済週報』がその危険性を指摘したのは、ダム問題だ。
高速鉄道建設では、あまりの短期間に急ピッチで建設を進められたことをたとえて「大躍進」と表現されたが、まさしく中国のダムもある一時期に集中して造られたことから、同じように「大躍進」の産物と考えられる。
問題は、いま中国全土にある約8万7千座のダムのうち約4万1千座のダムが老朽化(寿命とされる年月を経過している)して決壊の危険にさらされているという事実だ。
現在、国と地方は協力して老朽化したダムの補修に当っている(中央が1万5900座、地方が2万5千座を担当)が、工事が完成する2015年までに大洪水などのストレスに見舞われれば大災害につながりかねない危険性を孕んでいるのだ。
ダムの決壊といえば記憶に新しいものでは1975年に淮河に設けた複数のダムが決壊し河南省一帯が被災した「板橋事件」だ。このときの被災者数は1千100万人、死者は26万人にも上った。一旦事が起きれば高速鉄道事故どころではない大惨事を招きかねない爆弾というわけだ。