森永卓郎氏は1957年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。著書に『ニュースのウラ読み経済学』『「民主党不況」を生き抜く経済学』(ともにPHP研究所刊)など多数。震災直後いち早く原発のスイッチを入れろと唱えた森永氏は、菅首相が唱える原発代替論を“荒唐無稽”と切り捨てる。
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菅首相は再生可能エネルギーによる原発代替を考えているようだが、将来的にはいいだろうが、現時点では荒唐無稽というほかない。最低でも20年や30年はかかり、もし数年程度で無理やり増やそうとすれば、莫大な額の補助金が必要になり、電気料金も高騰することになる。
たとえば、スペインは補助金をじゃぶじゃぶ注ぎ込み太陽光発電の導入量で世界第2位になったが、今や財政破綻の状況だ。この6月にイタリアは国民投票で脱原発を選択したが、家庭用電気代は日本の1.7倍である。同じく脱原発のドイツも日本の1.5倍だ(OECD2009年調査より)。一方、電力供給の8割が原子力のフランスは日本の0.8倍と安価である。
イタリアはファッションや観光で食べている文化大国なので、電気代が少々高くても問題ないが、日本人は残念ながらラテン系のイタリア人のようになれそうにない。工業国のドイツは、ギリシャが財政破綻して以降、極端なユーロ安になったおかげで輸出が絶好調で、高い電気代の影響など吹き飛んでいる。
一方の日本企業は極端な円高に電力不足と法人税増税まで加わり、三重苦にあえいでいる。いきなり原発を全基停止すれば、間違いなく日本経済は崩壊し、失業者は百万人単位で膨れ上がるだろう。
脱原発イデオロギーに囚われた首相が強要する節電は、毛沢東の文化大革命を彷彿とさせる。文革の下放政策は、若者たちを農村に送り込み、非効率な仕事を1日16時間やらせただけで、何一つ経済発展には寄与しなかった。節電の強要も何も生まないばかりか、日本経済を崩壊させていくだけである。
今、日本の政治で求められているのは鄧小平の出現である。彼は「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕る猫は良い猫だ」と言った。安全を確保することは大前提だが、黒い電源でも白い電源でも、安価に安定供給できる電源は良い電源なのだ。
※SAPIO2011年9月14日号