連日、熱戦を繰り広げる「世界陸上韓国テグ」。その舞台裏で、一つのプロジェクトが実行されていた。世界陸上大集客作戦――7月に実施した東亜日報の調査では、韓国国内の半数が「開催地を知らない」との回答だった。
韓国では陸上競技の人気が低い。出場選手を見渡してもフィギュアスケートのキム・ヨナのようなスターがいないのだ。この結果に慌てたのは韓国政府だった。大邱市役所幹部が苦笑交じりにいう。
「2018年冬季五輪を控える韓国にとって、世界陸上は“試金石”の意味合いを持ちます。ガラガラの観客席が世界に放映されたら国辱物。政府から、大邱市の総力をあげて会場を満席にしろという強い“お達し”まできてしまいました」
日韓W杯で建設されたメイン会場の大邱スタジアムは収容人数6万8000人、対して大邱市人口は250万。連日満員を達成すべく、市職員の奔走がはじまった。まず彼らが始めたのは、団体券を企業や公共機関に売り込むことだった。市役所幹部が続ける。
「小中校向けに15万枚、中小企業83社に4万枚を販売しました。もちろん私たちだって負担しましたよ。大邱に1万人いる公務員には、一人当たり2枚の券購入を義務づけました」
民間団体も後押しした。券購入者にKリーグ(サッカー)の試合の無料観覧サービス。券保有者は食料の約4300店、美容室の約2000店などで10%割引。地元スーパーも販促用景品として1万枚を購入した。こうした努力が奏功し、開幕には券は“ほぼ完売状態”となったという。だが、まだ心配の種は残っていた。
「券を配られても本当に来場するかわからない。だから、私たちは企業に戸別訪問して『会社の終業を繰り上げてでも観戦してもらうように』『通勤バスでスタジアムに直行できるように』頭を下げました」(同)
まさに八面六臂の活躍。スーパーの景品として券をもらった人まで探し出し、観戦を頼んだほどである。選手以上に、市職員が汗をかいている。
※週刊ポスト2011年9月9日号