ジャーナリストの上杉隆氏は、今回の民主党代表選ほど記者クラブの「世論誘導」がひどかった“首相選び”はなかったと指摘する。なぜ、記者クラブは前原誠司・前外相を「本命」と持ち上げたのか、上杉氏がその裏側を読み解く。
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記者クラブメディアが「本命」ともてはやした前原誠司氏は、クラブにとってもっとも都合のいい候補者なのである。
前原氏は、記者会見オープン化に消極的だ。国土交通大臣だったときは1回も記者クラブ以外で会見を開かず、外務大臣になって渋々会見をオープン化しても、会見時間を半減するなどした。つまり、記者クラブにとって「いい人」である。だからこそ、国交相時代の八ッ場ダムにしてもJAL処理にしても、中途半端なまま放り出しても批判を受けなかった。外相時代の尖閣ビデオ問題では、弱腰になって映像を公開しなかったが、これも問題になっていない。
前原氏が出馬を表明した翌日(8月24日付)の朝日新聞は、〈(ドングリの)背比べに、大粒のクリが割って入った〉〈他の顔ぶれはやはり「二列目」の感がある。クリへの好悪はおいて、エース級の参戦で緊張感は高まろう〉と書いた。
記者クラブメディアは、実は何の実績もない前原氏を、自分たちが担ぎやすいという理由だけで「大粒のクリ」扱いしたのである。
極め付きが献金問題だ。前原氏は在日外国人からの献金問題で辞めたことになっているが、本筋は国会でも追及された、暴力団とのつながりが指摘される企業グループからの献金問題だ。ところが、新聞・テレビはこれも追及しようとしない。
小沢一郎氏の「政治とカネ」は検察とメディアのデッチ上げだったが、あれほどうるさかった記者クラブが、なぜ前原氏のより悪質な献金問題には黙っているのか。
私は元政治家秘書の立場として、献金は外国人も暴力団も故意でなければ問題ないとの考えだが、前原氏は自らが小沢氏の「政治とカネ」を批判してきた人物だ。彼をお目こぼしする新聞・テレビの姿勢は、どう考えても矛盾している。
記者クラブ側は、献金問題で前原氏を追い込まなかったことで、貸しを作った状態にある。自分たちのいいなりにならなければ、いつでも降ろすことができるカードを握っている状態だ。神輿として担がれた前原氏の立場は危うい。
※週刊ポスト2011年9月9日号