8月23日に行われた島田紳助の引退会見では、終始「美談」に仕立て上げられた感があった。紳助は暴力団との付き合いについて「人として(感謝している)」といった発言を繰り返し、所属事務所の吉本興業は芸能人は影響力があるだけにクリーンであるべきと主張した。吉本と紳助は立場は180度異なるが、共同で、周到なシナリオを練り上げる必要があった。
吉本興業は、テレビ局やスポンサー、そして世間に対しても、暴力団に対して毅然とした態度をとるとの姿勢を示さねば、それこそ存立問題につながりかねない。
一方、紳助は恩義あるB氏との関係を「反社会的行為」と認めるわけにはいかなかった。
認めれば、B氏の顔を潰すことになり、より厳しい立場に陥る可能性がある。記者会見をつぶさに検証すると、その両者の微妙なバランスの上で演出された痕跡が至るところで見受けられるのだ。
よしもとクリエイティブ・エージェンシーの水谷暢宏社長は、会見冒頭、概要を説明するとともに、社として反社会勢力との関係遮断について社を挙げて取り組んでいることを事細かに説明した。
続く、紳助のトークは非常に巧妙だった。
たとえば、後輩たちに向け、〈二度と僕のような甘い考えで接しないでもらいたいと思います〉と、社長の言葉を後押しするように警告する。そうかと思うと、B氏に対しては、〈人として恩を感じました〉などと感謝の言葉を繰り返す。
一番、象徴的なのは、〈後悔はしていません。『あの人とつきあわなければよかった』と心の中で思ったら、僕は僕を嫌いになっちゃう〉という言葉だろう。
また、紳助は何度もお詫びの言葉を発しているが、交際について詫びるのでなく、あくまで、〈自分勝手な引退を〉詫びているのだ。
吉本興業と紳助のこの綱渡り的シナリオを完結させるために、実はある仕掛けが施されていた。
会見では厳しい質問が皆無で、むしろ紳助の一方的な心情吐露を促すような“助け船質問”が相次いだことは、視聴者にも奇異に感じられたに違いない。
実は会見で質問を許されたのは、1回だけ質問した朝日新聞を除けば、テレビ局と芸能レポーターばかり。要するに“テレビ村”の住人だけだ。
3人の本誌記者も手を挙げ続けたが、司会者に完全に無視された。吉本側は自社に近い質問者のみ優先し、より本質を糾す質問をあらかじめ封殺したのだ。涙のケジメ会見はこうして演出された。
※週刊ポスト2011年9月9日号