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田中角栄の「敵も味方にする力」 菅には決定的に欠けていた

 首相が孤立し、野党どころか与党もまとめられないと、復興や経済対策に悪影響を及ぼす。それがわかっていたのに、辞めると表明した首相をズルズルと居座らせてしまった。これは菅直人氏のみならず、ふがいない「ポスト菅」政治家たちを含めた政界全体の責任である。まさに貧困と言うべき政治の停滞。これを打破するリーダーはいないのか。政治評論家の森田実氏は、「田中角栄ならば、こんな政治手腕を発揮した」と明快に論ずる。

 * * *
 田中角栄ならば、と考えるに際して、改めてつくづくと思うのは、今の政治家は本当に怠け者だということ。激動の時代には、政治家は寝食を惜しんで働かなければならない。寝ている暇があったら、人に会い、勉強して行動すべきだが、最近の政治家に「寝るな」と言うと「それでは病気になってしまいます」と言う。そういう人間には本来は政治家としての資質がないわけで、政治家になるなと私は言いたい。

 翻って3.11後、菅政権は、自ら病院に入院して閉じこもり、何もしていないような状態で、菅氏は閣僚からの信頼さえ失うようなありさまだった。結果、野党どころか与党もまとめられず、復興対策は遅れに遅れ、法案成立に何か月もかかっている。

 角栄ならば、震災発生後すぐに与野党をまとめ上げ、たちまち復興関連法案を成立させただろう。補正予算に関しても、細切れに小出しにするようなことはない。

 そうすれば、震災発生からずっと、過酷な避難所暮らしを強いられてきた、被災者たちの生活も大きく変わっていたはずだ。私も何度か被災地を回ったが、政治の停滞のせいで、彼らに一番必要な「カネ」も、「汗をかく役人」も欠けていた。

 復興を推し進める目的の下、与野党が協力するためには、角栄ならまず、民主党の「マニフェスト」という “毛針”(マニフェストは選挙に勝つために民主党が国民を釣った毛針だと私は思う)を捨て去っただろう。早い段階で自民党ほか野党に譲歩し、マニフェストの縛りから自らを解放しておけば、その後、ゼロベースで連立でも何でもできたはずだ。

 相手の譲歩を得るためには、先にこちらが譲歩をしなければならないものである。実際、4月末から5月初旬にかけて、国民新党代表の亀井静香氏は創価学会にまで接触し、公明党の協力を取り付ける一歩手前まで行っていた。しかし、菅氏は亀井氏の影響力が強まり、実質的な亀井内閣になることを恐れたのか、援護の電話一本もせず、何のバックアップもしなかった。角栄ならば、自ら頭を下げて回って、与野党をあっという間にまとめ上げただろう。

 角栄には、菅氏に決定的に欠けていた、「敵をも味方にしてしまう力」があった。

 例えば、全逓(全逓信従業員組合、日本郵政グループ労働組合の前身)出身で、旧社会党の論客として知られた大出俊(村山内閣で郵政大臣)と角栄の関係は、実に興味深い。第一次岸改造内閣で郵政大臣を務めた角栄は、当時の組合幹部だった大出の力を認め、対立する相手に「俺の秘書にならないか」と誘いかける。さすがに大出は「そこまでやるわけにはいかない」と断わるが、これをきっかけに二人は互いを認め合い、まさに肝胆相照らす関係となった。

 政治権力の運営にはチームの力が欠かせない。優秀な人材を取り込んで、叡智を結集させ、動かしていく。しかし、自らの内閣すら運営できなかった菅氏は、チームではなく、できれば一人でやりたかったようだ。いわば“零細企業のオヤジ”タイプであり、本来、一国の宰相たる資質ではない。そして、残念なことにそれは菅氏だけではなく、小沢一郎氏を含め、現在の政治家の多くがそうなのである。

※SAPIO2011年9月14日号


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