日立・三菱重工「統合」記事で、両社にすきま風が吹き始めた。いったい何が起こっているのか。ジャーナリストの須田慎一郎氏が解説する。
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「日立・三菱重工連合の最大の狙いは、東芝包囲網を構築することにあったと言っていい。その点では、両社の思惑は一致しているのだが……」
三菱重工役員がこう言葉を濁す。
さる8月4日、日経新聞朝刊が一面トップで、「日立・三菱重工統合へ13年春に新会社 世界受注へ巨大連合」とタイトルされたスクープ記事を掲載した。しかし、日経の報道をきっかけに両社の経営統合へ向けての動きは、急激に失速し実質的に凍結という格好となってしまった。
「今回は完全に日立サイドが前のめりになっていた。日経にリークしたのも日立だろう。日経に書かせ、経営統合を既成事実化しようとしたのだろう」(前出の三菱重工役員)
もっとも日立の経営トップが前のめりになるのも無理からぬところだ。仮に両社の経営統合が実現すれば、売上高は12兆円を超える世界最大級の総合インフラコングロマリットが誕生することになるからだ。
「今後、BRICsなどの新興国では、400兆円にものぼるインフラ投資が発生することが予想されています。そしてこの分野でしのぎを削っている日本勢は、日立、三菱重工、そして東芝です。
そうした競争の中でもともと親密な関係にあった日立と三菱重工が経営統合すれば、対東芝という点で優位に立てると踏んだのでしょう」(メガバンク首脳)
最大のネックとなったのは、三菱重工の三菱グループ内での立場だ。
「重工は、三菱グループの中核企業だ。三菱グループは、何よりも『三菱』という商号を重要視し、グループ外の他社との経営統合では主導権の確保に重きを置いてきた。
日立の企業規模は、重工の約3倍。経営統合に踏み切った場合に、『三菱』という商号を守り、主導権を確保できるのかどうか。その答えは、おのずと明らかだ」(三菱グループ首脳)
さらに今回の報道により、これまで良好だった両社の関係に少なからず影響があると指摘する声もある。
「日立のリークを疑い、不信感を強めている人間は多い」(三菱グループ首脳)
日立の勇み足だったとすれば、その代償は非常に大きい。
※SAPIO 2011年9月14日号