8月19日付けの産経新聞は、「政府は18日、平成24年度当初予算で各省庁が財務省に提出する概算要求について、一般歳出とは別枠の東日本大震災の復興関連は、要求額に上限を定めない方針を固めた」と報じた。この「方針を固めた」に込められた意味を、東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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政府が正式決定する前に流れをつくるために、官僚が特定の新聞に「方針を固めた」原稿を書かせてしまう手法がよく使われる。先に特ダネとして記事を書かせて記者との関係を良好にしておくと、その後も議論の相場誘導を図りやすい利点もある。
この例で言えば、復興予算要求額に「上限を定めない方針を固めた」というのは、官僚の高等戦術の臭いがぷんぷんする。上限を決めないのだから、予算は分捕り放題になるかもしれない。それだと「財務省は歳出を削りたいんだから困るんじゃないか」と思われるだろう。そうではないのだ。
財務省の本当の狙いは増税である。増税さえ確実になれば、歳出は膨らんでもかまわない。むしろ乱暴なくらい歳出が膨らまないと、肝心の増税の必要性が薄れてしまう。実は、そちらのほうがはるかに困るのだ。
いまの段階では「上限を設けない方針」を表に出して、歳出要求がどんどん積み上がるのを放置する。要求が膨らんでいい加減なところに来たら、おもむろに「今年はこのくらいでなんとか。でも増税しなければとてもダメですね」と話を落とす。
財務省はそんな作戦を考えているはずだ。歳出を適当に膨らませて増税を確実にする。それは財務官僚にとって、口が裂けても言わない伝統の基本的テクニックである。だからいま「上限を設けない方針を固めた」という記事が出るのは、財務官僚にとってウェルカムである。
実際には、復興基本方針で1次補正と2次補正を除いて使える復旧・復興予算は5年間で残り13兆円程度と決まっているから上限はある。財務省はいずれ増税が決まるころに来年度の上限も決着させる腹だろう。
※週刊ポスト2011年9月9日号